朝、雨音で目が覚めた。寝ぼけ眼を擦りながらカーテンを開けて外を見る。
「やっぱ雨だ。」
 もしかしなくても、顔がほころんでいるのがわかる。
 今日は雨。 自分にとって、嬉しい天氣。
 洗濯も出來ない。買い物に行くのも億劫だ。けれども、自分にとっては嬉しい天氣。
 ゆうべ酔っぱらったままベッドまで自分を連れ込んだ元凶を一応、起こしてみる。
「先生。起きて下さいよう。今日、雨ですぜ。」
「…ん〜。」
「起きないんですかい?御飯つくっときますんで、起きる気になったら起きて下さいよ。」
「…ん〜。」
 まともな返事が返ってくるはずもないので、早々に失礼をして寝所を出た。自室に行って着替えねば。
 自室に行くには、事務所を通る。昨日の木場の旦那との宴によって、かなり素敵な様相を呈している。久しぶりにいらっしゃったので、隨分派手に飲んでいらっしゃった。一息、短い溜息を吐く。
 益田君が来るまでに綺麗にしないと。
 そういう益田君もベロンベロンにつぶされていたので、今日は来るかどうか。

 先に御飯をつくろう。
 考え直し、先に朝ご飯の下拵えをして、食べるだけにした。もう後はお汁を温めるだけにして、着替えてきた。
 今日は雨で暖かい。
 足袋を穿こうか穿かないか迷っていたけど、やっぱり穿こう。思い直して事務所のソファで穿いていた。
 

「足袋、穿かせてあげる。」
 後ろから手が伸びてきた。
「先生?」
 めずらしい。こんなに早く起きるなんて。ソファの内側に先生は廻ってきた。そして下に屈むと、足に被せただけだった足袋を穿かせてくれた。
「お前の足袋はいた足が、結構好き。」
そんなこと言いながら、足を自分の膝に乗せてコハゼを填めてくださった。
「やですよう。」
「だってホントだもの。…こっちも。」
 子供みたいに真剣に、楽しそうに穿かせてくださる様を見て、なんだか可笑しくなった。
「先生こそ、早く着替えてきてくださいよう。」
 照れくさくて、そんなことを言ってみた。わかっているのに。

「今日はどっこも行かないんだから、着替えなくても良いよ。」


 そう、わかってる。
 だって今日は。


「雨の日なんだから。」




                                                                 end.

Afterword

エノトラ・雨の朝。和寅視点で。
榎さんは雨の日は濡れるのがイヤなんで、外出しないのです。だから、一緒にいる時間がたくさんある雨の日が、和寅は好き。ってことで。

甘過ぎ〜。









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