神田の町を歩いていると、益田は前方に珍しいものを見つけた。薔薇十字探偵社へ出勤前のことである。とある紳士の依頼した、娘の恋人の身上調査報告の帰りである。
 さいわい、ターゲットは風評も人柄も結構であったので、益田も肩の荷が下り、足取りも軽く薔薇十字探偵社への帰途についていたのだった。
 「あれ…和寅さん?」
 なにも和寅が珍しいのではなく、彼が、街を歩いているのが珍しい。いつもは探偵社でマメマメしく貴人麗人変人探偵の傍で、かいがいしく世話をしているのが彼の常である。べつに、和寅が街を歩いていたっておかしいことはないが、イメージとして珍しい、と益田は思った。
 小倉の袴に袷の着物、真っ白い足袋に綺麗な草履という、いささかクラシカルだが好く似合う、いつもの姿の和寅は、茶色の紙袋を抱えて歩いていた。益田は、後ろから呼びかけるよりも少し驚かしてやれ、と頬を緩ませながら走った。

「かっずとっらさん!」
 ぽん、っと肩口に手を置く。
「うひゃあっ!?」
 全然益田に気がついていなかったのか、和寅は素っ頓狂な声を上げた。
「そんなに驚かなくっても良いでしょう、和寅さん〜。」
 和寅が酷く驚いた顔で後ろを振り向くと、にやにやと八重歯を見せて笑う益田がいた。
「益田君ですかい…脅かすなよ…。」
 益田を認めた和寅は、太い眉をしかめた。
「いや、スイマセン。予想以上に驚いてくれたもんだから、こっちが吃驚しましたよ。
それにしても…和寅さんと街で会うなんて珍しいですね。」
 さりげなく紙袋を持ってやりながら、益田は尋ねた。
「ああ…私ゃあんまり、こんな時間に外に出ないからね。今日はたまたま。」
「どっか行って来たんですか?」
 雑貨屋か何かと思って聞いた益田であったが、答えは予想外のものだった。
「ええ、ちょっと病院に行って来て、そのついでに紅茶とジャム買ってきたんでさぁ。なかなか美味しいジャムですぜ。」
 益田の持ってやった紙袋をカサカサと開けて、益田に嬉しそうな顔で見せた。
「へ??紅茶は兎も角、和寅さんどっか悪いんですか?」
「いえ、検査して、薬貰ってきただけでさぁ。」
「はぁ…。」
「あ、それよりも益田君、お仕事どうでした?」
「え?あ、仕事ですか?ええ、おかげさまで万事円満に収まりまして、依頼人さんも安心して結納の話が進められる、ッて。」
「そりゃあお手柄じゃないか。身辺調査でやっと安心ってのは微妙だけどまぁ親御さんの気持ちもよっく判りますから。」
「親としちゃあ、いろいろ考えちゃいますからねぇ。」
 そんな話をしているうちに、榎木津ビルヂングの前まで来た。
 彼らは車道を挟んで向かいの道を歩いていたが、丁度その時流れていた車道の車の波が引いた。
「お、丁度良い。車もう一台向こうから来ますから、急いで走っちゃいましょう。」
「あ…!」
 と、言うが早いか、益田はするりと車の波をすり抜けて、道を渡った。
「ここら辺信号機長いですからねぇ。」
 と、益田が隣で一緒に走ってきたはずの和寅に話しかけようと振り向いたが、誰もおず、和寅は困ったような笑顔で反対側の道に立っていた。そして、信号機で車が止まってから、やっと和寅はこちらに渡り終わった。
「和寅さん、走っちゃえばこっち来れたのに。」
 益田は何気なく言ったのだが。
 それに対して和寅はさっきの困ったような笑顔で、こう言ったのだった。
「私ぁ、走れないんですよゥ。」
 少し淋しそうな、でも哀れという感情は湧かない、困ったような笑顔に益田は、
「え…。」
としか言うことが出来なかった。
 そんな益田に気付いた和寅は、にっこり笑うと、促すように言った。
「あとで追追話しますから、さぁ早いとこ帰りましょ。」
 二人は先刻の話には極力触れずに、下らない言葉を応酬しながら笑い合い、ビルヂングの階段を上り、薔薇十字探偵社に帰った。探偵は、不在だった。ソファの前の机に、紙袋を置き、益田は振り返って言った。
「和寅さん、ジャムここに置きますよー。」
「はーい。」
 奥に入って何やら水音が聞こえたと思ったら、和寅は水を張った盥と布巾2枚と、包帯を手に戻ってきた。
「ちょっと、失礼しますよ、益田君。」
 にっこり笑うと、ソファに座った。
「和寅さん…それ…。」
 益田が少し言い淀んでいると、その意を解した様に和寅は微笑みかけた。そして、静かに右足の草履を脱ぎ、膝にゆっくりと乗せた。その拍子に、さらりと衣擦れの音がして、袴と足袋の間から和寅の足が見えたが、足の内側が紅く引き攣っている部分があるのを見つけた。それは足袋の方に隠れていた。和寅は、白い足袋を脱いだ。
「わ…。和寅さん、どう…したんです…か。」
 和寅の右足首踝のあたりから内側には大きな引き攣ったような傷があり、そこを中心に白い足は朱く、熱を持ったようになっていた。
「思ったより、熱持っちゃったなァ。今日は調子が良いから、調子こいて、歩いて色々廻って帰ったんですけどねぇ。」
 そう言いつつ、和寅は盥から布巾を出して絞ると、足首を包んだ。
「いえね、昔怪我しましてね。いつもは痛くも痒くもないんですがね、ずっと歩いたりしていると熱持って困っちまうんでさァ。」
 そう言って、笑った。
「それ…いつの頃。」
「そうですね…私が17の頃だから…」
 益田にそう答えつつ、もう一度水に付近をくぐらせた。
「 …5年前ですかね。」
 水の中で布巾を振った。ぱちゃぱちゃ、と小さな音がした。益田は立ちあがると、和寅の座っている傍らに膝をついて座った。そして、盥の中の布巾をとって絞った。
「あ…。」
「…僕が、やりますよ。」
 和寅は何か言いたそうだったが、手を乾いた方の布巾で拭いた。
「…じゃあ、お願いしますよう。」
 その言葉に、益田はこう答えた。
「僕がやりたいんですから、やらせてください。」
 ひんやりと、熱を持った足首に気持ちが良い。
「…それで?」
 益田は話を促した。
「あ…ええとですね、私はこれでも中学まで出てましてね。」
 

 わたしゃ、コレでも中学まで出てましてね。
 それも御前樣、先生のお父上が行かせて下すッたんですが、使用人の子が中学まで出してもらったってだけでもありがたくて。
 しかし、私ぁ勉学ってのが手につかない性質でしたんで、お屋敷に戻れば良いや、どうせ先生のお世話は今までやってたんだし、ッと、そんな気持ちで、お屋敷の執事やってるうちの親父に相談したんです。そうしたら、泣かせるじゃないですか親父、建具屋の旦那に話つけて来ましてね、次の日には弟子入りの話が決まってたんですよ。やる事が早い。親としちゃあ、人に使われるよりは手に職でもつけて一本立ちして欲しかったんでしょうよ。うちの兄さんは総一郎様の秘書やってるし、息子の一人くらいは悪い意味でなく、一本立ちさせたかったんでしょうね。
 まあ仕事自体も面白そうだし、って事で弟子入りしたんです。
 それがいけなかった。
 礼次郎様が、偉くお冠になっちまってね。確かに、総一郎様も、うちの兄さんも、私が出て行くって事は、ありがたいことに
反対してくださったんです。で、いつでも帰ってきても良いって事で送り出してくれたんですがね。
「礼次郎様のお世話するのも、もう終わりですねェ。」
 なにげに話したのがいけなかった。
「なんだと?」
 先生、こっちを訝しげに見るもんだから、
「今度、わたしゃ建具屋に弟子入りするんでさァ。だからお暇させてもらうんですよ。…てっきり御存知かと。」
 って言っちまったんですよ。そしたら、偉い剣幕で出ていっちまって。どうやら御前樣へ抗議に行ってくだすったらしいんです。
 まあ、御前樣も渋ってここにいれば良いのに、といって下さってた方なので、旦那様の執事やってる、うちの親父を呼びつけて言って下さった。どっこい、うちの親父も肝が座ってましてね。というか、腐ってもうちだって、代々続いた由緒正しい江戸っ子、頑固にゃあ負けてません。けんもほろろに先生、うちの親父にやられて。
 実際問題、もう私が身ひとつで行くだけって段階で話はチャラにできないとこまで行ってるもんだから、さしもの先生も引き下がるしかありませんや。あとで親父に聞いたらば、こういうことになるから礼二郎様には知らせなかったって。
「じゃあ礼二郎様、お世話になりましたよう。」
「どこへとなりに行けばいい!」
 私が出ていくときも、お部屋から出てきてくださらないでお顔を見ずに出たんです。それで、まぁ仕事の方も覚え始めた3.4ヶ月経ったくらいですかね。建具屋の旦那も、みなさんも良くしてくださって。良いところでしたよ。

 木材置き場で、私は木を選んでたんです。そこに建具屋の対象の娘さんと姉やさんが来たんですよ。娘さんはまだ3つで、私に良く懐いてくれてましてね。
「寅吉!」
「おやお嬢さん。」
「これ、あそぼ!」
 言いながら、私に向かって寄ってきながら、鞠を投げてきたんです。ところがそれがいけない。子供の投げる球ってのは、あらぬ方に飛んでいくでしょう。材木を立てかけたところにぶち当たった。
 と思ったら、材木の束が崩れた。
 走ってくるお嬢さんを、私は思わず抱きしめて身を小さくしようとした途端。
 目から火が出て気を失った。


 目を覚ましたら、病院の蒲団の上でさぁ。目の前に泣きはらしたお嬢さんの顔がある。どうやら無事だっだみたいで、わたしゃ安心の溜息を吐いた。そしてお嬢さんを抱き上げようと、身をずらした途端。
 全身に痛みが走った。
 特に、右足首が、焼けるように痛い。
 傍にいたお医者と旦那とお上さん、兄弟子や姉やさんが私を制した。
 姉やさんが仕事場に駆け込んで、知らせてくれたそうで。一番に駆けつけた兄弟子が言うにゃあ、足首から酷い血が出てたって。お医者が言うには、軽い打撲が主だが、右足首の筋に角材の端が丁度、切れない包丁を力任せに、ぶち当てたみたいになって、脚の腱をぶった切ってた。なんとか歩けるだろうが、走ったり長く歩いたりするのは無理かもしれないって。
 わたしゃあ、なんだか他の人の事みたいに訊いてた。
 ただただ、痛くッて。
 でもお嬢さんに傷が無くて良かったとしか思ってなかった。傷でも付いたら、嫁入りに支障がしまさぁね。
 痛み止めの注射をもう一度して貰って、薬が効いてきたのか、頭がとろんとなって、うつらうつらしていたら、突然ばぁんと扉が開いた。驚いて、みんな振り返ったのを、わたしゃぼんやり見ていた。
 そしたら、驚くのも無理はない。
 礼二郎様が扉を開き、血の気のない真っ白なお顔で出てきた。
 そのお顔は表情ってものが無く、とっても綺麗で、あんな時に不謹慎なんですけどね、なんだかこの世のものじゃないくらいの綺麗さでしたよ。ものも言わず、つかつかと私の傍に来ると、黙って頭を撫でてくれました。
 そこに、遅れて総一郎様と親父と兄さんが来たもんだから。病室が偉いことになった。たまたまその部屋に他の病人が入っていなかったから良いものの、ここじゃあ、ッて事でみんなが移動した。けども、お嬢さんと礼二郎様は残って下すッた。
「寅吉ゴメンね、ゴメンね…。」
 もう目が溶けちまうんじゃないかってくらい、泣きはらしたお嬢さんがベッドの横でぼろぼろ泣いている。そのお嬢さんを、傍らの椅子に座っていた礼二郎様は膝に乗せて、尋ねたんです。
「寅吉はどうしたのか、君は知っているのかい?」
「あたし、寅吉といっしょに遊びたかったの。いつもおとっつあんに木材置き場で遊んじゃいけないって言われてたのに、寅吉がそこにいたから、あたし鞠で遊ぼうって鞠を投げたの。そしたら木に当たっちゃった。木がたくさん倒れてきたの。寅吉はあたしを庇ってくれたの。」
「…それで?」
「…そしたら、寅吉は動かなくなったの。姉やがみんなを呼んできて、大勢の声がして、寅吉の上の木材をのけたの。そうしたら…。」
「そうしたら?」
「寅吉の右のお足から、物凄い血が流れてたの。お医者様はもう走れないって。あたしのせいなの。どうしよう。もう寅吉は走れないの。」
 霞がかった頭に、お嬢さんの声が響きましてね。それでも、私ぁこんな小さなお嬢さんが泣いてくれるってのが物凄く切なくてね。わんわん泣いているお嬢さんに、あやすような声で、礼二郎様が言ったんですよ。
「君は、怪我をしたのか?」
「ううん。寅吉が助けてくれたの。」
「君を助けるために、寅吉は頑張ったんだからな。君が無傷なら、寅吉は喜ぶ。」
「でも、寅吉はもう走れないの。あたしのせいで!」
「それなら。」
 礼二郎様は、とても優しいお声で仰ったんですよ。
「それなら一向に心配することはないぞ、少女。僕がこれからずっと寅吉を背負って走るんだから、問題はない。」
 私はもう有難くて有難くて。薬のせいか、だんだんと白んでくる意識で、ぼろぼろと涙を流しましたんです。

 目を覚まし、身を捩った途端、右足に鋭い痛みが走りましてね。
「…ぅあ…!」
 そしたら、大きな手が私の頭を撫でたんです。そこでようやっと妙に重たい目を開けると、礼二郎様が酷く生真面目な顔で私を撫でてて呉れたんです。
「れ…れいじろ、さま?」
「僕から離れるから、こんな事になるのだ。」
 相変わらずのご様子で、私は思わず笑ってしまいましてね。
「おかわり…ないですね。」
「ふん、3ヶ月かそこらで、僕がかわるわけない。」
 と言いつつ、窓の傍に歩いて行かれると、カーテンをお開けになったんです。もう夜更けなのか、窓の外は暗く、それでも月光の灯りが、さぁっと部屋に入ってきました。礼二郎様は腕時計を月明かりで確認すると、
「おお。和寅、薬の時間だ。」
 と水差しから湯飲みに水をお入れ始めたんで、私も起きようとすると、そのままで、と制されました。
 すると先生、薬を自分のお口に放り込んで水を含むんです。
 面食らっていると、私の頭の下に手を差し入れられ、顎を持って上を向かせると、私の顔に影が落ちてきたんです。
 ゆっくりと、水と薬が口に入ってきました。こくり、と大きな音を立てて、私はそれを飲み込みました。全ての水が私の喉を通っていっても、温かな、水ではないものは出ていかず、暫く、私の顔に影はかかったまんまでした。甘く痺れて、静かに静かにどうにかなってしまいそうな、そんな感覚に囚われました。
 ようやく、ゆっくりと影は遠ざかってゆきました。
「体は、痛いか?」
「動くと、こたえますよ。」
「足は、痛いか?」
「動かすと、響きます。」
 短い会話を交わすと、先生は傍らの椅子にお座りになって、蒲団の中の私の手を握りました。大きな手で、とても冷たかったんですが、火照った私の手にはとても気持ちよかったんですよ。
「和寅。」
「なんですよう。」
「とても偉いことをしたが、もうすこし上手く下敷きになれ。」
「無理ですよう。」
 私は苦笑しました。
 すると、礼二郎様は私の手をぎゅっと握り、逆光でお顔の見えないまま、
こう呟いたんです。
「いいか、足が動かまいが、走れまいが心配は要らないぞ。僕がこれから、和寅を背負って走ってやるから、問題は要らないんだからな。」
 私は返事も出来ず、ただただぼろぼろと涙を流すことしかできなかったんです。そして、私は礼次郎様の頬に一筋、銀色の月光にひかるものを見つけたときに、今まで以上に涙が零れたんです。


 退院の後、私は建具屋をお暇させていただきました。師匠達は娘の恩人だなんて、とても心配してくださってたんですが、逆に私には、それが申し訳なかったんですな。当たり前の事しただけなのにねェ。
 そして、私はお屋敷に戻りました。
 礼二郎様のお世話に戻ったんですよ。時々熱を持ったり、痛んだりするけれど、私はそんな時、寧ろ嬉しく感じることがあるんです。



「そういう、曰く付きの傷ですよ。」
 和寅は、静かに益田へ微笑みかけた。 
「…。」
 益田は声を出すことも出来なかった。
 もう、赤みも引いて熱も収まった足を、益田は黙って乾いた布巾で拭いた。
 知らなかった。
 この探偵社に来てから隨分経ち、和寅とかなり仲が良くなった。和寅が走れないことも、榎木津と一緒にいるその一片も。自分の身をかえりみずに他人のために犠牲になるということを、事も無げに微笑んで当たり前の事だと言ってのける、優しさの大きさを。そして全ての運命を、静かに受け止めて生きている強さを。
 愛しい恋人の、過去を知らなかった。心に大きな跡を付けていた人の存在の大きさを、知らなかった。
「…湿布。貸して下さい。」
 益田は、低い声で言った。
 先刻病院から貰ってきた湿布を懐から取りだして、和寅は益田に渡した。湿布薬を貼り、包帯を巻いてやる。
 しゅ、しゅ、という衣擦れの音だけが、広い探偵社内に響いた。黙って二人はその音を聞いていた。

「ありがとう。」
 和寅は笑い、立ち上がって草履を履いた。
「さ、益田君。お茶淹れますね。さっき買ってきた紅茶、淹れましょう。」
 盥と包帯、それから紙袋から取り出した紅茶の缶を持って和寅は台所に行った。脱ぎ忘れられた足袋が、益田には酷く白く、目に沁みた。
 それを黙って、暫く見ていた。一筋、熱いものが頬を伝った。

 薬缶を火にかけた和寅は、カップを二つ出した。その和寅の背後から、益田が強く抱きしめた。
「わ、わ、?ま…益田君ッ?」
 驚いて振り向こうとしたが、益田の顔は和寅の頸筋に埋められていた。
「…知らなかった。」
 益田が、呟いた。
「え?ああ、足のことですかい?まあ言う機会もなかったし、そんなに気にしないで下さいよぅ。」
「気に…しますよ和寅さん…。」
「そう…ですかい。」
 暫く、そのままで二人はいた。

「和寅さん…僕ぁ一生、和寅さんを抱いて歩いていきますよ。」
 益田はそう呟くと、器用に背後から薬缶の火を止めた。
「え?ってうわ、益田君!」
 後ろから、膝の後ろと肩に腕を回され、和寅は益田に抱き上げられた。
「そうしても…いいですか?」
 あくまで真面目な顔で、益田は尋ねる。少し、声が震えていた。そんな益田を和寅はじっと見上げ、婉然と笑っていった。
「じゃあ、お願いしますよう。」
 益田は、八重歯を見せて、安心したように笑った。
 疲れた時、少し痛む時、この男にそっと寄りかかっても良いかな、と和寅は胸の奥が温まるのを感じ、微笑が零れた。

 それから益田は、和寅を彼の自室に運んでやり、探偵が幼馴染みの刑事を連れて酒盛りに帰ってくるまで、今まで以上に仲良くなったのだった。





 新しい紅茶は、次の日にやっと馥郁とした香りを漂わせた。


                                                                 end.

Afterword

えっとー、榎木津和寅根底の、益田和寅。永月の基本です。
っていうか、勝手に和寅を足悪くさせてしまいまして。
…水戸黄門みてたらこう言う話に…。あわわ。なぜか和寅は足関係の話やシーンを入れたくなる…。べつにフェチとかではないのだけれどなあ。
益田、相当入れ込んでますよ、オジサンの秘蔵ッ子に。対榎木津の道のりは険しいが、ガンガレー(笑)。









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