君は誰


なんていうか…川島新造の過去捏造・満州話です。しかも木場青木入ってます。
加えて、無駄に長いです。宜しければ、ドウゾ!





 月は満月。
 とても明るい。

 猫目洞から、ほろ酔い加減の青木を連れ、木場は月光の照る路へ出た。
 どこまでも薄青い路は、明るい。木場はその明るさに嬉しさを感じて、ふわふわと歩く青木の薄い肩を支えた。
「…せんぱい?」
「ふらふらしってっと、そこらへんのドブに嵌まっちまうぞ。」
「だいじょうぶ、ですよ〜。」
「大丈夫じゃねェから言ってんだろうがボケ。」
「こうすれば〜。」
 ぱふん、と木場の太い腕に腕を絡めて青木は幸せそうに笑った。
「…しょうがねぇクソガキだな。」
 どうせ、夜道には誰もいまい。
 酒の所為なのか、月の所為なのか。木場はほんのり擽ったい嬉しさに、鼻を掻いた。路を曲がっても、まだ路地裏である。角を曲がると、前方から来る人影が見えた。
「おい、青木。腕ェ放せ。」
「やぁですよー。」
「コラおい恥ずかしいだろうが!」
 酔っ払いに何を言っても無駄である。まぁ酔っ払いに絡まれて歩いている、と思ってくれれば良い。木場は溜息をついて顔を上げ、その人影を見た。
「あ。」
「あ。」
 意外な人物である。
 剃り上げた坊主頭の兵隊服に黒眼鏡の大男。歩いてきたのは川島新造であった。
「川新じゃねえか。」
「修か?お前さん何やってんだ。」
 子供のような青年を腕にくっつけて、夜道を歩いている様は不可思議ではある。
「何って…一杯引っ掛けてきた帰りじゃねェか。お陰でこんなお荷物くっつけて
なきゃなんねェ。」
 そう言って、木場は青木の頭をくしゃくしゃと掻き混ぜながら、下唇を突き出して語った。
「わわわ…!もぉ先輩〜!」
 青木は眉を顰めて上目で抗議の意を表す。
 仲が良いのだな。
 川島はこの二人の関係を、微笑ましく感じた。
「そう言うお前は、なんだよ。」
「俺か?司のお呼び出しだよ。あいつにゃあ昼夜の区別がつかねぇらしい。」
「まあ、しっちゃかめっちゃかな生業だからな。お前ェも御苦労なこった。」
 川島と木場は苦笑し合った。
「…ん?」
 川島は、下からの強い視線に目を移した。
 青木が木場の腕に捕まりながら、川島をじっと見上げていた。
 そのまっすぐな視線に、川島は訳もなくドキリとし、ほんの少しだけ頬を赤らめた。
「…このひと…。」
 青木は酔いで回りのゆっくりした頭で記憶を反芻する。
「川島…新造さん。」
 さらりと前髪を揺らして小首を傾げながら、確認の瞳を向けた。
「いつぞやの刑事さんか。憶えていてくだすったとは光栄だね。」
 そう言いながら、川島は青木の顔まで見をかがめ、笑った。
 明るい月光に透かされた黒眼鏡の奥は、意外にも優しい目だと、青木は感じだ。
「憶えてねェ訳ねェだろ。」
 木場の鼻を鳴らした返答が返る。
「違いないね。」
 川島も、身を屈めたまま木場の方を向いて笑った。
「こいつぁ…俺の部下で青木って餓鬼だ。」
 木場が青木を紹介した。
「青木…文蔵です。」
 真っ直ぐに川島の目を見ながら、童顔の青年はにっこりと微笑む。白い月光に、淡く白い肌が光っている。
 川島は、少しだけ見惚れた。

 遠い記憶の人も、このように淡く微笑む人だった。真っ直ぐな瞳で、こちらを見ていた。
 その霞の向こうの人に、青木は似ていた。
 顔立ちこそは、ほのかに似ている程度だが、雰囲気が似ていた。

「おい。どうした?」
 木場に呼ばれて気付いた。
「あ…いや。」
「あれ?」
 その時、青木が疑問符を出した。
「なんだ?」
「川島さんの服…。これって…協和服ですか?」
 どきり、とした。
「協和服?」
 木場が首をひねる。
「ええ、満州の国防服みたいなもんですよ。そうでしょう?」
 最期の言葉は、川島に向けられたものだった。
「ああ、そうだ。良く知ってるな。青木さん、引揚者かい?」
 見た目は階級章を剥ぎ取った兵隊服に見える。前の釦がチャックでそれにフタがついているのが協和服である。しかし、この服を協和服だというものは東京に引き上げてからは誰もいなかった。
「僕は違いますが、うちの兄さんが、満州から帰った時に着ていたのを憶えてます。」
 あの霞の笑顔が、笑っている。
 あの笑顔も遠い海の向こう、今は無い、蝶の形をした幻の国にいた。
 満州国。
 
 その時、夜風がふわりと吹いた。
 ふるり。
 青木が小さく震えた。
「寒いのか?」
「ちょっとだけ。」
 青木は木場を見上げて笑顔で答えた。
 仲睦じいのだ、この二人は。
 何故だか、川島はつくんと心の奥が痛んだ。
「引きとめて悪かったね。じゃあ修、今度一杯引っ掛けようぜ。青木さんも一緒にな。」
 そう言って、川島は別れた。
 はい!と嬉しそうに返事する青木が、心に残った。


「青木…文蔵っていったっけ?」
 顔と共に、もうひとつ川島の記憶が揺れる。昔の馴染みに青木という姓で、文のついた名の男がいた。
 青木文太郎といった。物静かな落ち着いた青年だった。
 まさか…親戚筋でもあるまい。青木という姓は良くある苗字であるし、そうそう知り合い同志で知り合いや親族などという事はあるまい。満州にいた青木という人間自体、いくらでもいただろう。
 川島はその考えを捨てた。
 今頃は、青木文太郎は何をしているのか。そっちの方向に考えを持っていった。
 けれど、心は裏腹になかなか思考をまげて、独占させて呉れはしない。
 歩みを止めた。
 先ほどの青木のあえやかな笑みが、忘れられなかった。そして。遠い霞の笑顔が瞼の裏によみがえって、青木の笑顔と重なる。忘れたわけではないけど、忘れようとしたわけでもないけれど。
 一息、溜息を吐いて川島は昏い天を見上げた。
 月は変わらず、静かにただ在った。あの時とも変わらない。
 



 川島はだらだらと、株式会社・満州映画協会に向かって洪煕街を歩いていた。
 新京神社にいる「仲間」から機密文書を受け取り、帰る途中である。公園まで乗合のチンチン電車に乗ってきたが、そこからは歩く事にした。どうせ歩いて2・30分の事である。いつもの殺伐とした仕事の合間に、命の洗濯である。
 満州国新京の街は、乾燥していて埃っぽい。喉を潤さないと、後が大変になる。小腹も空いたことだし、中国人の普段着である長袍の裾を蹴り上げ、路を逸れて近くの茶店に入った。
「親爺、茶ァ頼む。香片茶だ。あと春餅。」
 川島は今、中国人の格好である。
 ここ、東北地方・、満州には体格の良い者が多い。おかげで、大男の川島も寧ろ日本人の格好でいるよりも目立ちにくい。また、この方が仕事に支障が無いのである。幸い、川島の中国語は綺麗な北京語である。
「あいよ、旦那。」
 この地方も訛が少ない地方なので、地元民にも怪しまれない。湯呑に茶を注ぐと、ジャスミンの綺麗な匂いがした。
 熱い茶が喉を潤す。
 川島は目を閉じて、喧騒の茶店の声を聞くともなしに聴いていた。老人・子供・青年・中年・少女。色々な年代の中国語が聞こえる。
 たわいもない談笑に興じている。
 ここには中国人しかいない。他の少数民族はいるかもしれないが。隅の方で一塊りになっているのはおそらく蒙古族だ。川島にも解らない言葉で笑いあっている。反対の隅でキムチの漬け具合を自慢しているのは朝鮮族の主婦だ。ともかく、日本人は川島以外いない。
 満州族・漢族・蒙古族・朝鮮族と諸々の少数民族、そして日本人が相和して国を構成する「五族協和」を、ここ満州国は国家イデオロギーにしているが、この現状を見ればその達成度は一目瞭然である。川島は、鼻を鳴らして一人、笑いに見えない嗤いを零し、春餅と呼ばれる小麦粉で作った薄い皮に味噌とおかず、ねぎをくるんだ軽食にかぶりついた。
 食べ終えて喉を潤した川島は外へ出て、背伸びをした。
 さて、ぼちぼち帰らねば、上司にやんわりと叱られる。普段が温厚なだけに、何をきっかけで怒るか、どんな怒りようか見当も付かない。しかも過去が微昏くて判らない人物なだけに怖ろしい。
 大通りに向かって歩き出そうとすると、背後から甲高い少女の声が聞こえた。
「ちょっと待って!」
 川島には満州で中国人の少女の知り合いなどいない。だから他の者が呼ばれているのだと思っていた。すると、長袍の裾をひっつかまれた。
「待ってって言ってるのに!」
 驚いて振り向くと、川島の棟の辺りくぐらいしかない中国人の少女が、困ったような顔で見上げていた。
 質素だが仕立てと物の良い旗袍とプリーツのスカート、そしてお下げの少女である。あどけない、でも端正な顔をした少女だった。瞳が、とても澄んでいる。全く持って、川島とは縁のない世界の人間である。普段のきな臭い仕事に浸かっている川島は、その清らかさに、少しだけ躊躇した。
「あぁすまんね嬢ちゃん。…なんか用かい?」
 とても綺麗な、小鳥が囀るような北京語を話す少女に向かい、川島は尋ねた。
「これ、忘れ物でしょ?」
 そう言うと、少女は茶封筒を川島に見せた。
「あ…。」
 たったいま、川島が貰ってきた書類であった。茶店に忘れたことすら忘れていた。書類自体は暗号で書かれているものの、上司に知られたら。
 …お小言では済まないだろう。そう言えば、この少女は隣のテーブルに座っていた。
「あーそうだ、俺のだ。嬢ちゃんありがとう。」
 受け取ると、少女はにっこりと人懐こそうに微笑んだ。
「良かった。」
 その笑顔はとても素直そうで、川島は己の頬も知らずほころんだ。話す言葉も、語尾に小さな巻き舌のつく特徴的な北京語で、この少女が使うと、小鳥がさえずる様でとても可愛らしく感じた。

「ねえ、どこまで行くの?」
 少女が聞いてきた。
「俺か?満映まで。」
「私と方向一緒だ。ねえ、撮影所の人?」
 歩きながら、話し始める。
「まあ、そんなとこだよ。」
 一応撮影所の補助もするが、川島の所属機関は違う。
「へぇ凄いねぇ。いいなぁ。私、映画大好き。とっても綺麗だもの。」
 映画というのは、民衆の楽しい娯楽である。たとえそれが、ある種のイデオロギィに操作されていても。
「見た目は綺麗でもな、なかなか大変だぞ。」
「ふうん。でもいいなぁ。…ねえ?」
「なに?」
 少女は川島を覗きこみながら、訊いた。
「北京の人?」
「ああ…小さい頃はな。どうして解る?」
 本当は、川島に中国語の言語指導を施したのが北京人なので、そのお陰で川島は綺麗な北京語が話せる。
「私も生まれが北京なの。だから言葉が似てると思って。」
「嬢ちゃん北京人か。」
「うん。北京生まれよ。ついこないだ、もうひとつおうちのある長春に来たの。」
 長春は新京と日本が改める前の、この都市の名前である。
「へえ。」
 そうこうしているうちに、満映の前まで来た。
「じゃあね。私んち、ここから近いの。」
「ああ。」
 今度、ここを尋ねても良い?と耳の輪に着いた小さな輪をシャランと鳴らして、首を傾げ遠慮がちに尋ねた少女は、梅香霞(めい・しゃんしゃ)と言った。
 川島は、梁一新(りゃん・いーしん)と受付で呼べ、といっておいた。それは川島の中国通名である。まあ、「仕事」の邪魔にもならなさそうではあるし、良いかと思ったからだ。

「遅くなりまして。」
 川島はデスクで書き物をしている上司に言った。
「いえ、構いませんよ。書類さえ持ってきていただけたら。」
 小柄な上司は眼鏡の奥で微笑んだ。先ほどのやり取りを知っている上での言葉かと、少しどきりとした。
「お使いくらいはちゃんとやりますよ。」
 そう言っておいた。
「…で、どうでした。」
「変わり無いそうです。まだ動きは見えません。」
「それは重畳。」
 川島の仕事は、この主・甘粕正彦の表沙汰にならない仕事専門の補助である。つまり、満映理事長に就任した甘粕は満州国の文化発展に力を注いでいるが、公然の秘密として囁かれる『昼の満州は関東軍が支配する。夜の満州は甘粕正彦が支配する』といわれるところの、夜の部分の仕事だ。綺麗なだけの仕事ではない。なぜどんな考えで、撮影所勤だった川島が、こちらに引きぬかれたのか、川島は考えないことにしている。
「もうすぐ、吉岡中佐のところから青木が帰ってくるはずですので、
そちらの報告と照らし合わせて考えましょう。
 青木文太郎は建国大学の学生である。たまたま建大へ甘粕が視察に行った折、アルバイト学生として雇って帰ってきた。冷静で判断応力に優れた青年であるので、他の数人の学生と共に重宝され、タマゴのうちから養成されている。


「梁一新。」
 青木の声で、俺は振り向いた。
「…洪文海(ほん・うぇんはい)か。なんだ?」
 青木とはいつも日本語で、そして本名で呼んでいる。今日は通名で、中国語だったので、中国語で返す。
 振り向くと、背広姿の青木と共に立っていたのは、些か恥ずかしそうにはにかむ梅香霞だった。
「アンタにお客ですよ。…若紫ですか?」
 そう言って意味ありげにニヤリと笑った。俺はその笑みの意を汲み取り、苦笑しながら手を振って答えた。
「すまんね。」
「それじゃ小姐、帰るときは受付で退出表にサインするんだよ。」
 青木はそう香霞に言い聞かせ、もう一度川島の方を見て笑うと、帰っていった。
「ねえ、若紫って何?」
「…いや、なんでもないさ。」
 誤魔化しておいた。そんなつもりはない。
「お邪魔、だった?」
 すこしだけ済まなさそうな顔で、香霞は川島を上目で注視た。
「いいや。暇なもんさ。」
 そう言うと、花がほころぶように香霞が笑った。そのとき、不意に後ろから声が掛かった。
「良い顔する子じゃないか。」
 古川という脚本家の一人だった。
 川島は元々撮影班に所属しており、今も甘粕の指令で動く以外の時、たまに映画撮影を手伝ったりしていることから、懇意の一人である。
「どうだい、川島さん。この子ちょっと撮影に使っても良いかな?」
「素人だぜ。ただ単に撮影所を見に来た子だ。」
「いいよ、満人の少女がいなくてね。どうせ今だって、ちょうどエキストラの穴埋めに事務所の子を見繕おうと来たんだから。」
「おいおい。」
 くいくい、と長袍の裾が引っ張られる。
「ねえ、何お話ししてるの?」
 いままで古川とは日本語で話していた。少し不安げな顔で訊かれ、川島は笑顔で答えた。
「香霞、映画に出ないかって。」
「え?ほんと?」
 嬉しそうに、ぱあっと顔が明るくなった。
「ほら、良いってよ。」
 満足げに古川が笑った。
「香霞いいのか?」
「うん、映画出てみたかったの!お父様達には内緒にしておけば大丈夫!わーい!」
「この子なんて?」
「父親に内緒にしときゃあ大丈夫だってよ。」
「そりゃあ良い。…ところで川島さん、この子どこの子?」
 いわれて気付いた。尋ねると、清代漢軍正黄旗人(由緒ある職業軍人)の傍系と言う、なかなかにやんごとない家の子供だった。北京の本邸から別宅へ移ってきた明代からの家のお嬢様は学校帰りなど、時々家を抜け出しているらしい。
「…そんな千金小姐(お嬢さん)だったのか…いいのか?」
「いいの。」
 とにかく出たくて仕方がないらしい。こちらが心配してしまう、と川島は溜息を吐いた。

「ねえ一新哥(にいさん)!見てみて!」
 親しい年上の男に対する敬称を付けて、川島を呼んだ香霞は嬉しそうに飛び出してきた。華やかで愛らしい清代の少女に扮した香霞は、施された薄化粧ではにかみ、嬉しそうに見せた。
「ほぉ可愛いもんだな。」
「お正月みたい!そう、さっきね私、李香蘭と喋っちゃった!」
 嬉しそうに微笑んだ。

「今日は済まなかったな。」
「ううん、とっても楽しかった!」
 夕刻、大きな赤い夕日の中、満映の門を潜りながら、話した。
「今日の撮影の時に撮った写真、取りにこいな。」
「うん!」
「家はここなの。」
 そう言って、ある屋敷の前に止まった。
「ここ…俺ンちのすぐ近くじゃないか。」
「そうなの?どこ?」
「あの道を曲がった…そう、あそこの四合院の東の棟。」
 じゃあね、また今度行くね一新哥。そう言って、少女は入っていった。川島は、悪くない胸のくすぐったさに、苦笑していた。


 それから川島のところに香霞は遊びに来た。懐いてくる仔犬のような少女に、川島も悪い気はしなかった。2回、年が廻った。
「一新哥。いる?」
 朝方、この時間には自宅にいる、といってあった時刻に少女が来た。
「いるが、すまない。今から出掛けるんだ。」
「そう…。」
 何気なく、言った。
「建国神社までだけど、行くか?」
 一瞬、香霞の瞳に陰りが入ったのを川島は気付かなかった。
「うん!」
 
 満州の中の、日本の神社。
 明白に異端な存在として、鳥居は立っていた。川島はなんとなく鳥居を潜らず、外側を通った。顔見知りになった警備員が、それを知らん振りした。なんとなくだが、漢民族である香霞に潜らせるのは申し訳ないと思ったからだ。
「よう。」
「今日は…おや、こぶつきですか?」
「まあな。」
 くつくつと笑う、祝と言う青年神主と、書類の交換をし会う。香霞には解らない言葉なので、彼女は一人で物珍しくあちらこちらを見回していた。その時、向こうから女の声がした。
「あらー。川島さんって少女趣味なんですか?」
 悪戯っぽく笑う巫女が一人、こちらにやってきた。
 黒髪に白い肌の、少しきつめの美人だ。
「操…人聞きの悪いこと言うんじゃねえ。」
 祝に目配せをすると、川島はウンザリした顔で振り向いた。
「だって〜見た目犯罪よソレ。それより聞いて。今度私寿退社することになったのよ。」
「ほぉ…操を選ぶって剛毅な旦那、尊敬に値するね。」
「どういう意味よ。」
「それはさておき、いつだ?」
「まだ先だけど、来年の秋。この間、先方が大連の連隊からいらっしゃって、結納だけはしたの。」
「ほお。軍人さんか。ともかくおめでとうな。」
「ありがと。…っていうか、川島さん。このカワイイコはなに?」
 操はくるりと香霞に目を向けて問う。
「近所の屋敷のお嬢様だよ。丁重に扱えよ。」
「へえ…ねえ小姐、名前は?」
 操は香霞に向かって微笑むと、ゆっくりとした中国語で問うた。操の白い単衣に紅い袴を、物珍しく眺めていた香霞は驚いたように目を大きくしたが、質問に笑って答えた。
「梅香霞よ。お姉さんは?」
「私は秋山操。ミサオって呼んでね。」
「み…さお?」
「そうよ。今年で21。私ね、来年の秋に結婚するの。」
「わあ、おめでとう!…私は14なの。」
 女同士で話が弾んでいるようなので、川島は祝との合議を再開する。

「操さんって、中国の言葉出来るんですね。」
「ええ、ここに来てから頑張ったのよ。だって市場でボラれるんだもの。でも、川島さんの方がずっと上手でしょ?」
 なにげない言葉に、香霞が引っかかった。
「かわしま…さん?」
「そう。あの人の言葉は地元民並でしょう。」
 操の脳天気な声が聞こえ、川島は驚いた。
「かわし…まって?」
 不思議そうな顔で小首を傾げる香霞に、親切心の篤い操は指さして指名した。
「あのひとよ?…もしかして、知らなかった?」
「私…あのひと、一新哥だって。…日本人?」
 不安定な足場に立っているような、そんな顔で、川島の方を見た。後ろで、操が眉を寄せて両手を併せて川島に許しを請うていた。
「梁一新も、俺の名前だよ。でも本当は川島新造、日本人。」
「そう…なの。…びっくりした。」
 意外にも、にっこりと笑って微笑まれたので、川島は拍子抜けた。

「また遊びにお出でね。今度は日本のお菓子だしたげるから。」
「また今度ね。」
 祝は操と共に、香霞に声を掛け、2人を送り出した。
「…悪いことしちゃったかな。」
「…まあ、いずれは判るようなことだから。操が気にしなくても良いと思う。」
「ならいいんだけど。」
 少し心配そうな操を慰めつつ、祝詞をあげに行くのを思いだした祝は、ひとつ伸びをして茶を探した。長春の気候は、乾燥する。


 神社を出て、大通りの流れに沿って歩き出した頃、川島は口を開いた。
「瞞すつもりはなかったんだけどね、ごめん。」
 すると、香霞は強い瞳を川島に向けて、言った。
「満人だと思ってた…。…どうしたらいいのかわかんない。」
「どうしたら?」
「私も、秘密にしてたことがあるの。」
 香霞はほとばしるように一気に話し始めた。
「私、本当は望門寡婦なの。婚儀を上げる前に、旦那様は死んでしまったの。もう一生どこにも嫁いだりしない。お父様達は、私のことを可哀相に思ってるから私が外を出たりするのを、あまり怒らない。
でもね…其の旦那様、北京の大学生だったんだけど…日本軍に殺されたの。ぼろぼろの…襤褸切れみたいになってた。だから私は北京から出てきたの。…一度しかお会いしたことがない旦那様だけど、あんまりじゃない!2度目にお会いた時はもう事切れてたの。今日も、一新哥がいるから日本人のいるところに行っても大丈夫だって思ったのに!やっぱり日本人とは…一緒にいられない!」
 そう言って走り出そうとした香霞を、川島はとっさに捕まえた。
「な…なに?」
 怯えた目に、ずきりと川島の胸は痛んだ。ほんとうは、俺は、この手を掴む資格のない人間なのかもしれない。
 ふと、川島の胸にその考えが突き刺さった。
「日本人をひとくくりにするな、とは言わないが…俺といるのは厭か?」
「わか…わかんないから、どうしたらいいのかわかんない!」
 そう叫ぶと、香霞は走っていってしまった。
 川島は一人、残された。



 隨分と長い間、香霞と会わなかった。季節は、動いた。春から、夏。
  8月8日。川島は関東軍司令部の一室にいた。甘粕のお供である。
「…遅いですね。」
 横で青木が欠伸をした。手に専門書を持っている。
 曲がりなりにも、青木は学生である。
 今は夏期休暇に当たるそうだが、休み中も続く授業の一環である農学実地実習つまり畑仕事よりは、神経は使うがこちらの方が性にあっている、と建国大学生は可笑しそうに、くつくつと笑った。大学では、青木の行動は一般に伏せてあり、校外実習として扱われているらしい。
「ああ…飯、喰ってくるか。」
 一向に終わらない主人の用事の間に、二人は晩飯を調達することにした。どうも軍人、それも天下の関東軍の集まっている場所はぴりぴりしている。
 今日は特にそれを強く感じた。
 司令部の裏手に廻ると、満人相手の屋台がびっしりと軒を連ね、活気と食べ物の匂いに満ちていた。
 火鍋と言う、日本で言えばしゃぶしゃぶみたいな物を頼んだ。地元民は暑くても寒くても一年中好んで食べる。たくさんの野菜と一緒に凍豆腐も入れ、最後にうどんでしめる。噴き出る汗を拭き、川島はスーツ姿で汗ひとつ流さず熱い火鍋を上品に食している青木を呆れた目で見た。
「おまえ…。」
「なんです?」
「いや…。」
 訝しげにこちらを見る青年は、初めて見たときの純粋で澄んだ瞳から、良くも悪くも一皮剥けて、理知的な面差しの中、静かに些か昏い光を宿すようになっていた。
「青木、お前変わったね。」
「そうですか?…どこが。」
「なんてぇの…。雰囲気がさ、強くなったって言うかな。」
「そりゃあ、こんな仕事に携わってンですから、強くもなりますよ。」
 そう言って、青木は笑った。その笑みは青年に似合うあどけなさを残した笑みで、すこしだけ川島は安心した。
「…違いない。」
「学校も色んな奴がいて楽しいんですけどね、やっぱり…物事にゃあ色んなものの見方があって色んな作用があって、色んな使われ方してんだな、ッてのを体験させて貰ってますと…変わってきますよ、そりゃあ。」
 一線超えちゃいましたしね。
 そう言って、自嘲する様に青木は遠くを見て嗤った。仕事の内容は、何も書類のみではなく、仕事の「始末」自体も仕事のうちであった。
 実地でそう言うことも、ある。川島も、それを知っているから、黙っていた。
 微温いビールを一口含んで、青木は静かに語った。
「建大にいるときだって、いろんな知識が増えて色んな議論して。だから、甘粕さんに来ないかって言われたときには正直、厭だったんですよ。大きな力に飲み込まれて染め上げられちまう、ってね。そしたら、甘粕さん僕の気持ちを読んだか知らないが、君が知りたいと思ったことだけ吸収すればいい。選ぶのは君だからって。驚きましたよ。そんな言葉。…僕は正直、今の指令とかの本意をそのまま鵜呑みにしてる訳じゃあないが、契機を与えられたって面では、感謝してますよ。だから、変わったってのを、僕は褒め言葉として受け取っておきますよ。」
 そう言って、笑った。
 川島や青木は国士気取りのほかの連中とは毛色が違い、ただ職務として動く異色の存在として甘粕が腹心として重宝している。その片鱗を、川島は見た気がした。
「成長してるな、青年。」
 川島も苦笑した。
「そんなに僕と変わらないじゃないですか、年。…そういえば、川島さん。」
 ふと思い出したかのように、青木は尋ねた。
「なんだ?」
「最近見かけませんね、川島さんとこに遊びに来てた子。」
 つくん、と心が痛んだ。
「…ああ。向こうも飽きたんだろ。」
「そうなんですか?」
 ニヤリと笑う青木は、川島の酷く真面目な表情に、笑いを止めた。
「…どうしたってんですか?」
「いや…な、青木お前『望門寡婦』って知ってるか?」
「え?」
「婚約者に死なれた女だと。何処にも嫁がなくて、一生旦那の菩提を弔うんだってよ。」
 青木は言葉の意味を探っていたが、恐る恐る訊いた。
「香霞ちゃん…。」
「当たりだよ。旦那は北京の大学生だったらしい。どうやら学生の抗日運動をしていて、婚儀もなにもの前に、日本軍に殺されたそうだ。」
「まだ…あの子14じゃないですか?」
「俺と会う前の話だから12の時に死なれたそうだ。旦那と2度目にあったときが、襤褸切れみたいになって帰ってきた葬式の時だったって。」
「うわ…。香霞ちゃんもだけど、その婚約者も…。」
 青木の大学は国策大学と標榜されてはいるが、その実はなかなかリベラルな大学で、各民族の様様な人間が入学している。同期生の中で友人の満系学生などが思想犯などで捕らえられてもいる。そう言った意味で、香霞の婚約者の行動は分からなくもないのだ。
「で、俺は出会った時に満人の名前の方で答えたんだ。丁度、城内に居たからな。満人の格好だったし、第一満人しか滅多に居ない城内で日本人でござい、なんて言えないしな。別に、騙すつもりは無かったがね。」
「まあ、分かりますよ。」
「それで別段訂正する事も無かったんだが、新京神社の操がポロリと。」
「川島さんは日本人だ、って?」
「ああ。それで言われたよ。日本人とは一緒にいられないってね。
俺が満人だと思ってたから、一緒なら日本人のところに言っても大丈夫だって、安心してたそうだ。どうして良いのか分からない、って言われて走ってかれちまったよ。今年の春のことだ。」
「そうなんですか…。」
「嫌われたよ。若紫失敗。」
 川島は苦笑してビールをあおった。生ぬるい炭酸が、喉を滑っていった。
 俺だって、あの子を側に置いていて許されるのかよくわからん。
 そう、川島は付け加えた。
「…多分その子、悩んでるんですよ。」
 青木が顎に手をやって考えながら言った。
「あ?」
「日本人は厭だけど、川島さんは好きなんですよ。でも川島さんは日本人。ね?」
「…馬鹿言うなよ。」
 じゃなきゃ2年もむさ苦しいオジサンの所に寄ってきませんよ、なんとかなりますって。そう言って青木は微笑んだ。



「おお、川島じゃないか。」
 司令部に戻ってロビーを歩いていると、一人の中尉に出会った。
「林さん。」
 数少ない、一般人である川島達にも気さくに話しかけてくる、珍しい軍人である。
「今日はどうした?」
「主が会議長引いてるんで、メシ食ってきたところですよ。」
「メシなら、下の食堂で食ってこれば良いのに。」
「冗談キツイですよ。関東軍の猛者の間でメシなんざ、味もわからなくなっちゃう。」
「俺はいつもそれだぞ。今、対ソ攻略で皆余計にぴりぴりしてるからな。
しかし…甘粕さんが来てるって事は…なにかあるのかな。」
「さあ?」
「あんたら、暇なら俺の部屋に来るか?今日の宿直中尉は俺なんだ。」
「じゃあ…青木、終わるまでお邪魔するか。」
「ええ、お言葉に甘えて。」
 林中尉の持ちこんだ酒を飲み交わして数時間が経った。ふと気付くと、ドアの外がおかしい気配がする。
「…なんだ?ちょっと見てくる。」
 林中尉が廊下に出たとたん、同僚が叫んだ!
「オイ、林!空襲だ!」
 言うが早いか。耳を劈く、けたたましい空襲警報のサイレンが鳴った。
「ついさっき入電が来た。新京北郊外に向かっているらしい!」
 林中尉は振り向くと、精悍な軍人の顔に戻った。
「すまんが、いってくる!」
 そう言い、階下へ駆けて行った。川島らも廊下へ出て、甘粕の元へ急ぐ。
「ああ、君達。」
 数人の佐官と共に、甘粕が来た。
「ソ連が参戦してきましたよ。ソ満国境を戦車隊が超えているそうです。」
 案外に、落ち着いた甘粕「大尉」の声だった。日ソ中立条約を破って、ソ連が戦争に参戦してきた。寝耳に水も等しい。
「…全てが、変わりますね。」
 青木が川島に囁いた。
 防空壕に急ぐ足のまま、川島は、ああ、と短く答えた。暫くして、北の方角から2・3回爆音が聞えた。音からするとカナリ離れた郊外のようであった。

 朝、軍用車で満映へと帰った。
 どうやら爆撃されたのは、南嶺・二道河子という地区と、皇帝の居る皇宮近く、新京監獄で数人死傷者が出たのみであった。
 道すがら、パニック状態の新京を眺めた。誰もが、関東軍の武力低下をうすうす感じていた。このうえソ連軍が進入してきたらひとたまりも無い。そうすれば、満人達地元民の暴動が起こるのは必至だ。日本人は、たちまち不安と恐怖に包み込まれたのだ。
 満映の門に、人影がある。その影を見掛けたとき、思わず川島は叫んでいた。
「香霞?!」
 慌てて車から降りた。
「一新哥!よかった!」
 弾む鞠のように。
 川島に飛び込んできたのは、数カ月ぶりの香霞だった。場違いだが、川島は香霞の髪から綺麗な香りを感じた。
やはり、躊躇した。
「香霞!こんな時に外を出るんじゃない!」
「だって!だって不安だったんだもの!やっとの事で、お屋敷抜け出してきたの!」
 強く切り替えされた。
「な…。」
「私、こないだあんな事言って逃げだ。だけど、昨日の空襲の時に一番心配で心に浮かんだのは、一新哥なの!だから来たのよ!私、間違ってない!」
 強い、強い瞳が、川島をいる。涙を溜めて、頬を薔薇色に染めた少女は、自分よりも遙かに大きな男と対峙している。
「…小姐、すまないがその男を暫く貸して貰えないですかね。」
 ビクリと振り向くと、甘粕理事長が苦笑していた。
「あ…まかすさん。」
 川島は、意味もなく喉が乾き、掠れた声を出した。
「必ず、貴方の元に返しますからね。」
 あくまで笑顔である。
「…ええ。先生。」
 そう言うと、香霞は川島から離れると、終わったらうちに来てね、走っていった。
「さて、忙しくなりますよ。」
 ぽん。と川島の肩を叩いて甘粕は、微笑みながら門の中に入っていった。


 この数日間、刻々と戦況が悪化し、十二日午前中には新京にソ連軍が進入するだろうとさえ言われた。
 十一日には在満の全男子を対象に“全員軍事動員令”が発令され、川島と青木も一度徴兵動員された。が、要人警護要員として分配され、結局は十四日、甘粕の元に戻ることとなった。つまり、軍籍には入らなかったのだ。どのような力が働いてこうなったのか、考えないことにした。
 後に、満映男子関係者の軍徴収を、甘粕が独断で拒絶したそうだった。正式職員でもない川島達も、助かった。
 また、甘粕は関東軍本部に乗り込んで、従業員家族を非難させる列車を一本確保し、銀行から満映の預金を引き出て全従業員へ退職金を配った。

 新京駅へと流れる避難民と殆ど逆流するようにして、帰った。
 十三日に既に、この国の皇帝は列車で新京から脱出した。青木がその偵察に行ったところ、日頃向こうの方から妙に気に入られ、目をかけられていた皇室御用係の吉岡が、先に青木を見つけた。満州国皇帝・愛新覚羅溥儀と運命を共にするらしい。
「吉岡さん…。」
「ここで逃げ出したら、人としていかんだろう。」
 日頃、「皇帝なんて、可哀想なもんさ。身寄りもなし、後嗣ぎもなし、わしが世話してやらにゃ、どうにもなりゃせん。うん、まあ早い話、わしの子供のようなものさ」と嘯き、仮にも満州皇帝やその皇族に対し、あまりに横暴な態度で仕えていた吉岡は、苦笑して唇をへの字に曲げた。
「…ご無事で。」
 あまり虫の好くような人物ではなかったが、青木はこの時心からそう思った。
「ああ。日本で、また会うか。帝国ホテルか精養件で、飯のひとつでも奢ってやるぞ。」
 そう言って、吉岡はいつもの不逞不逞しい笑みで返した。影が、限りなく薄かった。


 十五日の朝、ラジオが正午の重大放送を訊け、と知らせた。他の者は何事かとざわついていたが、川島と青木は顔を見合わせた。正午、聴き取りにくいラジオの向こうで、初めて聴く男の声で敗戦を告げられた。斥候のために満人姿となって満映を出ると、道往く中国人の態度が一変しており日本人への罵倒と共に暴動まがいの動きさえ見られた。
 川島は知らず、香霞の家へ走っていた。門番に梁一新と中国通名を告げると、心得ていたらしく、すぐに中に通された。ただし、中庭を抜けて母屋に隠れるようにしてだが。
「一新哥!無事だったのね!」
 香霞は嬉しそうな顔で飛びついてきた。
 今度は、躊躇わなかった。
「今のところはね。…これからだ。」
「日本、負けたのね。」
「ああ…。とりあえず、また戻らなきゃな。」
「あ…待って、これ。飲んでいって。」
 温かい茶を出された。
 喉ごしすべらかな茶は、香り高くて心に沁みた。
「ありがとな。また無事なら来るよ。危ないから香霞は外に出ちゃ駄目だ。」
「うん。」
 そう言っただけで、別れた。

 日本の降伏が一般市民にも知れ渡ったらしく、あちこちの日本人の家で、今まで温和しかったが暴徒と化した一部の現地住民達によって、略奪などが行われていた。
 その暴徒に追われた日本の難民が、筵や茣蓙を持ってふらふらと歩き、各地方から新京に避難しに来た難民、新京から出ていこうとする難民、それぞれが入り乱れていた。
 その時ふと、新京神社の巫女、操が今年の秋に結婚すると言っていたことを思いだした。
 無事、婚儀を上げられると良いが。そう思いながら、混乱の街を走った。

 大同大街の関東軍司令部の屋上に、黒い喪章を漬けた日の丸が半旗で掲げられた。全満州に、戦闘停止が発令されたのだ。
 そして十九日、甘粕は日本人難民の保護のために結成された民間組織「新京日本人会」の立ち上げに参加した。
 その際、青木は中央銀行が従来通り営業を続けているのを見た。流石は銀行員魂だ。と、感心したように青木は川島に語った。この日、ソ連軍が長春入りした。ソ連軍の噂は先のベルリン陥落の際に起こった酷い略奪と暴行のありさまであり、人々は戦いた。
 川島は一旦家に帰り、いざというときの為の換金にと貯めていた貴金属を奥深くにしまっておいた。
 
 次の日朝早く、川島は甘粕に呼ばれた。青木は別の用で不在だった。先日、日系職員の前で、甘粕は「私は死にます」と告げた。
 「皆さんは前途春秋に富む方が多いのですから、長く祖国再建のために働いてください。そして、ここに残っている婦人と子供を頼みます。日本に帰れるように」と、笑った。
 そして、そして中国人従業員には、「これからは皆さんがこの会社の代表となって働かなければなりません。しっかり頑張ってください。いろいろお世話になりました。これからこの撮影所が中国共産党のものになるにしろ国民党のものになるにしろ、ここで働いていた中国人が中心になるべきであり、そのためにも機材をしっかり確保することが必要です。」と語った。
 甘粕は、一度決めたら決行することを知っていた職員達は、片っ端の身の回りの自殺に仕えそうな物を隠して、見張りまで立てていた。川島は、見張りに黙礼した。
「今までご苦労さまでした。」
 優しげな瞳で、小柄な初老の男は言った。
「え…?」
 そういうことですよ、と甘粕は微笑んだ。
「甘粕さん…あんた…。」
 これから、死ぬ気だ。そう感じた。
 理事長室へと、甘粕は静かに入っていった。散歩に行くのだろう、と見張りは控えの室へ控えた。
 すると、呻き声が聞こえた。
 川島は急いでドアを開けた見張りの後ろから、甘粕が事切れているのが見えた。側近の赤川と映画監督の内田ら、駆けつけた数人が懸命に介抱していたが、
「駄目だ、青酸カリだ。」
 と呻いたのを聴きながら、川島は外へ出た。傍らの黒板には、大ばくち 身ぐるみ脱いで すってんてん と書いてあった。
 優しく物静かな表の顔と、冷徹で底知れない謀略を操る裏の顔。そんな顔を持った男は、たった今、消えた。
 その夜甘粕の葬儀が行われ、混乱の最中、満人・日本人を問わず3000人も集まり、葬列の長さは1キロ以上の長蛇を造った。
 川島と青木、そして香霞は白い喪服で、その列に黙って提灯を持って付いていた。遺体は満映撮影所の中庭へ埋められた。
 その後、なぜか満系の人間だけが、赤い提灯を持って歩く甘粕の姿を見たという。

 
 何時の間にか、新京の街は侵略される前の、長春と言う名になった。
 そして、ソ連軍による全満州の元軍籍にあった日本人将兵狩りが始まった。現役軍人と共に戦犯としてシベリア送りになるのだ。最期の数日間、戦闘もせず、銃も持たず、軍服さえ支給されなかった者が、戦犯として収容所へ送られてゆく。
 ただ「軍籍」があったと言うだけで検挙された。
 関東軍中尉であった林は、あの8日以来見ることもなかった。川島達も覚悟を決めたが、軍籍に入らなかった川島と青木は無事であった。
 確かに、端から見ても彼らは動員されていないようにも見えるのだ。心境は複雑ではあったが、内心安堵した。これも、甘粕の手配の故なのか、とぽつりと青木が言った。
 日本に帰り名が会社を立ち上げる、と言った年輩の日系職員に、これから中国人として、あんたらは生きた方がいい、と言われた。

 ソ連軍の嵐のような人や物資の略奪騒ぎに、長春中が震えた。
 満映のフィルムは、噂によればソ連が接収したらしい。香霞の映ったフィルムもであろう。資材は、甘粕の言葉通り、満系職員が必死で大半を確保したそうだ。更に国民党軍や八路軍が入り乱れた。日本に肩入れしていた人物や、満人の満州国軍籍の者は、漢奸として私刑の憂き目にあっていた。
 中国人街にあった川島の家は無事で、治安も良く、青木もそこに住んだ。中国人の梁一新と洪文海である。
 日本人から物を買い、中国人に売りつける仲買のようなことを始めた。治安も良かったことから、時たま香霞が顔を覗かせた。
 うちに来たらいいのに、という香霞に、迷惑が掛かるから駄目だ、と言うたびに彼女は別に…と、淋しそうな顔をした。


 零下30度を下回る昭和21年の2月頃には、ソ連軍の姿は市中に見えなくなり、国民党軍の指揮下に長春は入ったようだった。治安も、収まっていた。鼻を赤くした香霞が、餅を持って走ってきた。
「おすそわけ。」
「やあ…ありがとう!」
 青木が招き入れる。
「ねえ。」
「ん?」
「一新哥と文海哥、やっぱり日本に帰りたい?」
 何気なく、答えた。
「まぁ…なぁ。」
「そう…。」
 淋しそうな香霞の顔をいち早く察知し、青木はフォローした。
「でも、引き揚げの具体的な話も聞かないし、まだまだ無理だね。」
「あ…ああ。」
 それには何も答えず、香霞は餅を頬張った。

 突然、引き揚げることになった。
 5月10日、良く晴れた短い春のことである。満州、特に長春の政治情勢も中国共産党によって新政府が樹立し、安定してきた。この時期を逃すな、とかつて甘粕らが結成した「長春日本人会」で世話人をしている、かつての同僚が教えてくれたのだ。民間組織の日本人会が、全て引揚を統率していた。
「僕が、行って来ましょうか?」
「いや…俺が言ってくるわ。」
 門番に名を告げると、いつものように中庭を抜けて香霞の部屋に行った。確かに後家の娘に男が尋ねるのは、親から見ても微妙だ。
「一新哥!」
 どうしたの?と問う香霞に、川島はなるべく落ち着いた声で言った。
「今度の17日、引き揚げることにするよ。」
 それから長い間、沈黙が続いた。ぱしゃり、と金魚が跳ねる音がした。
「…私も、行く。」
 川島は耳を疑ったが、確かにそう言った。
「なに?」
「お願い、連れてって!」
「そ…れは」
「一新哥と一緒にいる!冬からそう決めてたの!」
 きっ、と見上げた香霞の目はとても意志が強そうで。
「本気か?」
「本気よ!」
 …ふるふると、小刻みに震えている。自分を取り巻く全ての者を断ち切って、付いてゆこうとする。それはとても強い意志で。
 川島は溜息を吐いて、こう言った。
「きついらしいぞ?」
「わかってる。」
「…じゃあ、行くか。東へ。」
「うん…!」


 青木に、帰ってその話をした。
 全て判ったように苦笑した青木は、日本人少女の戸籍をひとつ、持って来なきゃなりませんね。と答えた。
まあ、蛇の道は蛇である。そんなことはたやすい。
 
 その夜、かたりと音がして扉が開いた。香霞だった。小さなカバンに必要な物だけ入れてきた。
「お父様が…。」
 思い詰めた声を、絞り出した。
「お父様が…すっかり全部知ってらっしゃったわ。一新哥と文海哥のことも、引き揚げに私も行くって決めたことも。わかってて…好きにさせてくれてたの。お父様は、結局私が私の考えで動く事を許してくださるの。どうせ望門寡婦の縛られた私、自分の枷を今なら解けるんだから、行きなさい、ッて…。」
 ぼろり、と涙を流した。
 これを路銀に、ッて。そう差し出したのは翡翠の指輪2つと、金の腕輪。
「…親ばかなのか、何なのか…。」
 川島は複雑な顔で香霞の頭をなぜた。

 すこしづつ、香霞に日本語を教えた。
 そして、引き揚げの前日、川島はあるモノを手に入れて帰ってきた。それをそっとくり抜いた石鹸の中に、他の貴金属と共にうめこんで、元通りの石鹸にした。没収されないようにである。

「香霞、親御さんに会わなくて良いのか?」
「…あったら泣くから良い。」
 そのかわり、と2枚の写真をカバンの下敷きの裏に隠してあったのを出した。
「これ、持ってくの。」
 父と母、そして香霞の写真であった。北京の自宅で取ったらしい。
 もう一枚は、かつて満映で取った写真。もう一枚同じのを、おいてきた。
 そう言って、サッパリした笑顔で笑った。


 無蓋列車で鮨詰め状態である。
「かすみ、大丈夫か?」
 囁くような声で聴く。
 香霞は日本語が出来ないので、終戦間際に戦闘を見てショックで言葉が不自由になっている、と周りに言っておいた。
 実際に、大半が虐殺された開拓団から、血まみれで命からがら逃げてきて、言葉はおろか、記憶さえもが曖昧な子供もいる。そして、捏造した戸籍に記されたのは、梅本霞、と言う名だ。
「うん。」
 ぎごちない日本語で答えるが、元来頭の回転が速いらしく、引き揚げ者の日本語の洪水も、役に立っているようだった。
 長春から審陽へ、そこから船の出る胡盧島へと移動する何十日もの間で、基本的なやりとりは理解するようになった。
 余りからだが丈夫でない香霞は、ふらふらになりながら、ようやく列車から解放された。
 風雨も避けられず、野宿が何日も続いた。幾人もの人間が置き去りにされ、倒れた。彼らを助ける事も出来ないほど、自分たちも自分だけで精一杯だった。

 胡盧島の一時収容所で、川島は新京神社の顔なじみの巫女に出会った。
「祝と操は一緒か?」
 その巫女は眉を寄せて苦しげに答えた。
「祝さんは収容所に…何処に行ったかも判りません。ただ、八路軍が引き立てていったそうです。操は…。」
 操は略奪目的のソ連軍の兵士に家に来られた際、襲われそうになったのだという。その頃は自慢の黒髪を切り落とし、男装してそう言った災難を避けていたが、ばれたのだ。
「私、見たんです。傍らにあった短刀でのし掛かってくる兵士を避けながら、操は走りました。でも、追いつめられて。そしたら…その兵士に向かって、ニヤリと笑うと。操は自分の手で…首を…掻き切ったんです…!ゾクッと来るぐらいに、とっても綺麗な、勝ち誇った笑顔でした…。」
 あの女ならやる。
 汚される前に、自分で自分を殺して、永遠の勝者になる。けして誰にも汚されることなく。
 秋の花嫁は、白い肌を染める赤い血潮を結界として、純潔を守ったのだ。
「その後、私の悲鳴に気付いたソ連の憲兵が、その兵士を引っ立てていきました…。」
 お姉さん…強かったんだね。
 ぽつりと、日本語で香霞は言った。

 香霞は、微熱が続いていた。
「大丈夫。」
 そう言って、少女は笑った。
「香霞ちゃん、これ飲んで。」
 どこからか調達してきた薬を、青木が水と共に渡した。
「ありがと。ぶんたろうさん。」
「ん。…川島さん。4日後、船に乗れそうですよ。」
「…意外と早いな。」
「なんとかしましたから。」
 
 上陸用舟艇なるものに乗る事が出来た。船は約半月かかって日本に着くらしい。
 海が荒れると船は木の葉の様にゆれ、今度はさしもの川島達も舟酔で、生きた心地がしなかった。
 小さな船室で、3家族と同室だった。
 元軍人の家族は、父親がどこに行っているのかも分からない。心の強そうな母親と、眦の上がった気の強そうな息子だった。同じ船に、息子の友人達も乗っていたらしく、薄暗い船室よりも甲板で遊んでいた。もう一人娘がいたが、泣く泣く満人農家の夫婦へ渡した、と涙ながらに語っていた。
 旦那の兄、という男はいつも黙って弟の息子を優しげに見ていた。彼の息子は戦死、娘は胡盧島で亡くなった。引揚の列に襲い掛かる暴漢達に暴行された時、相手の性病が移ってしまったらしい。
 吉林で食堂を経営していた夫婦は、3人の子供のうち、2人の子供をに引き揚げの際亡くした。一人は香霞と同じ年の娘で、よく香霞を目にかけていてくれた。残ったのは、日本にいるはずの息子だけだ、と寂しそうに話した。
 川島達は、青木と香霞が兄妹で、その遠縁に当たる、といっておいた。そして、香霞は縁あって中国人の家庭で育てられたので、3人の間は中国語で話している、とも言っておいた。
 
 花が萎れるように、香霞も日に弱まっていた。それを悟られまいと通常に振舞う姿に、川島は切なくなった。
「もうすぐ日本だってよ。」
 船室に帰ってきた川島は、奥さん達とたわいもない会話をしていた。
「そう。」
 全員が、ホッと声にならない安堵の溜息をついた。
 そのとき、ご飯の分配の合図がして、奥さんと青木がそれに出て行き、船酔いでふらふらしている男達もお手洗いに一度出ていった。
 思いもかけず、香霞と川島の二人になった。
 まだ、軍人の息子は帰って来ない。母親よりも、食堂のおかみさんに怒鳴られて、漸く遊びの輪から出てくるのだ。

「香霞。」
「なに?」
 中国語で、話した。
「いいもんやるよ。」
 そういって、川島は石鹸を取り出すと、小さなナイフで器用に2つに割った。油紙に包まれた小さな物を取り出す。
「これ?」
 不思議そうな顔の香霞に、渡してやる。かさりと音がして、香霞の手に涙の滴型をした紅水晶のピアスが出てきた。
「わぁ…!」
 嬉しそうな顔を上げて、川島に微笑んだ。
「日本着いたら、それつけてみような。」
 ここ最近、青白いまでに透き通った頬を桃色に染めて、香霞は薄い薄いピンクの水晶を光に翳して見、川島に抱きつくと囁いた。
「非常謝射!一新哥!…ありが、とう。」
 最後の一言は日本語だった。

 広島の大竹港に上陸したのは、月の明るい夜だった。夜だというのに、出迎えの人が港に溢れ、夜目に見える「お帰りなさい おつかれさま」の横断幕を見た人々は声もなく涙が溢れた。青木も、鼻の奥がツンとして来た。
「何処の月も、おんなじね。」
 そう言って、香霞は青白く光る月光に融けていってしまいそうな笑みを、零した。
 音もなく、紅水晶が揺れて、光った。
 川島はそれを見て、何故か涙が出てきた。慌てて月を仰いでだが、暫く止まらなかった。青木はそんな香霞の影がとても薄いのに気付いた。
  10日ほど、引揚者収容所で休息し、色々の手續をすることになった。皆、消化不良や栄養失調、で皆フラフラだった。
 が、皆余力をかき集めて、何とか行った。これから生きる、ために。女達は、何十日ぶりかの風呂に、心底喜んでいた。事務所に行けば各自が希望する場所迄の切符は手配出来ると云う事だった。
 軍人の家族は四国の松山へ。
 食堂の家族は大阪までだった。
 川島達は東京まで。
 青木は郷里が宮城にあるが、東京に一家で出てきているので一度東京まで行ってから宮城に帰ると行って、どう調達したのか2種類の切符を手に入れていた。
 行き先によって列車が違うので、ここで別れた。皆、淋しいような嬉しいような泣きたいような、そんな複雑な顔で別れた。



 東京について、隠し持ってきた貴金属を換金し、漸く済むところが落ち着いた矢先。
 香霞は花が萎むように、眠るように、月が陰に隠れるように。あっけなく死んだ。軽い風邪が元の肺炎だった。
 医者が押っ取り刀で青木と共に来た頃にはもう遅く、香霞は静かに微笑んで「対不起…。」と詫びの言葉をひとつ呟いて、目を閉じた。
 青木と共に、近所の寺で荼毘に付した。
 香霞は赤い服で旅立った。

 後悔してたら、逆に香霞ちゃんに失礼ですよ。
 青木は川島の心を見たような言葉を吐いて、部屋の奥深くを探した。確かに今、いやいつだって何処か後悔していた。
 香霞が弱っていくたびに、引き揚げの時の辛さを感じるたびに、俺の所為でこんな事をさせている、と言う気持ちがどこかにあった。青木の言葉を聞いて、どきりとした。
 そして、青木は一着の赤い旗袍を出した。
 香霞が一度たりと手を通すことの無かった、ある人達のための衣装。結婚の衣裳だった。
 ヤミ市で見つけたんです。
 もうちょっと、大きくなったらって、川島さんに渡そうと思ってた。
 そう言って、青木はぽつりと震えた言葉を零した。
 
 熱が冷めるのを待っている間、川島は月夜の寺の境内を歩いていた。月が、初めて香霞が異国の土の踏んだときと同じ形で。
「何処の月も、おんなじね。」
 そう言ってあえやかに月光に融けるような微笑が、月に浮かんだ。
 知らず、月に向かって涙を流した。自分だけの自己満足でもいい。香霞はしあわせだったのだろう。そう思った。
 ちゃり、と握りしめていた紅水晶が鳴った。
 石はとても冷たかった。


 青木は東京の家族の消息を聞き込み、故郷に無事でいるとの事だったので、郷里の宮城へ帰っていった。海軍に入れられた弟が、余程気になるのか事あるごとに弟の心配ばかり口にしていた。
「忘れようとしても忘れられない日々でしたね。」
 そう言って、これからのんびり田舎で生きてきますよ、と青木は笑った。
 空を仰ぐと、鰯雲が沢山流れていった。
「動いてゆきますね。…なにもかも。」
 そう呟いた青木は、一粒だけ涙を零した。
 川島は、見ない振りをした。

 駅からの帰り、たまたま入った闇市で協和服を見つけた。そのありったけを、川島は買い込んだ。また在庫が出たら、買いに来ると約束して。

 映画でもやるか。
 帰りがけ、川島は遠い満州の高い空に思いを馳せた。
 『騎兵隊映画社』のデスクには、梅香霞の一度だけ映画に出たときの写真がそっと、しまわれている。
 清代の少女の紛争をした香霞は、長袍を来て照れくさそうにした川島の横に、あえやかな笑顔で、微笑んでいる。






 そんなことを、思い出しているうちに司のねぐら近くまで来た。
 月を仰いでみる。
「何処の月も、おんなじだ…ねぇ。」
 呟くと、頬を一粒涙が伝っていくのを感じた。

 川島は、黒眼鏡を外し、腕で顔を擦ると、一息溜息を吐いた。
 





「…今度、修ンとこへ遊び行くついでに、訊いてみるか。」
 なぜだか心に残ったあえやかな笑顔の童顔の青年に、ふと興味を持った。
 ああいう笑顔に、川島は弱い。




                                                             end.

Afterword


お題、月に向かいて泣く…。あー…長いです。20000字だって。原稿用紙50枚じゃん…ぷ。書きたいことがまとめられない〜。まあ、話しとしてはお約束の形態ですが。…っていうか、読んで下さった方(いるのか?)ありがとうゴザイマス!!
始めは木場青木と思いきや。まあ。川島フィーバーなので。永月の中だけで。
ぶっちゃけて、川島はカワイイもの好き。香霞に情が移ったって言うか。そんな感じ。でもココロに傷があるのね。そして青木が気になってます。うわー。
なにから書いて良いのやら。川島新造の過去捏造です。
満映の撮影技術者から、甘粕じきじきにスカウトってことで。シベリア送りになって無さそうなので(27年に日本にいるし)、
まあ、軍籍にはいなかったのかな、ッて事で。かといって、正式な満映職員でも無さそうなので。
しかも、青木は青木の兄・青木文太郎(捏造)です。建国大学生。しかし校外実習ってなによ。忍術学園でしょうか。忍たまかい。現在は地元をこよなく愛する宮城県庁観光課職員でございます。あいかわらず弟・文蔵を溺愛中。うわ。
香霞は…なんつーの。こう言う子、って事で。純粋な強い子。
望門寡婦ってのはホントのお話。死んだ旦那や結婚前に死んだ婚約者に操を立てるのです。でも、時代が下がってくると再婚しない人って言うのはある種の贅沢なんだって。裕福な人しか出来ないらしい。
実在の人物・甘粕とか吉岡とか、使える人間使いました。人間って色んな一面持ってるもんじゃん?だから史実の記録の一面を引用です。ほかに色々やってますけどね、この人たち。
甘粕はいろいろ興味深く。満映の時の甘粕は、評判良いらしいです。自信作の映画を観客の大半が寝てしまってた夜、深酒で荒れたらしい。…かわいい。甘粕の死を見取った赤川は赤川次郎氏の父らしい。
ちなみに吉岡は、亡国の皇帝・溥儀と行動を共にし、ソ連軍に連れていかれシベリア送り、昭和37年に亡くなったそうです。
いろんな本を参考にしました。愛新覚羅浩の流転の王妃の昭和史とか、いろんなHPとか。あとで列挙した方が良いのかしら。満人・満州という言葉に、他意はないです。状況的に合うと思っただけ。









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