メモ
木場が席に帰ると、一葉のメモが置いてあった。
す、とその小さなメモ用紙を取り上げ、読む。
少しだけ目を細めて眺め。
明らかに照れ隠しの仏頂面で深く息を吐き、机の2番目の引き出しへ仕舞う。
それは引き出しの一角に、今日も一葉増えた。
メモは至って事務的な物である。
綺麗な几帳面な文字が並んでいる。
書き手は青木。
向かい側の青木の机には、そのメモ用紙の束がちょこんと置いてある。
性質が真面目な青木は、木場が不在時に何か異変があり、自分もデスクを離れる時には、いつも必ずメモを残す。
例えば、誰それから電話があっただの、次の会議は30分遅れで開始だの。
二人が入れ違いに席を離れる、と言う機会そのものが頻繁にある訳ではないので、その頻度は多くはないものの、その度にメモが書かれる。
相棒になってから以来、メモは書かれ、受け取られた。
木場はそれを貰うたび、なぜか擽ったいような気分になる。
生真面目な青木に青臭さを覚えるから、という理由ならば、苦笑であろう。
それにもうひとつ、木場のために向かいの席に座ってメモを書く青木をメモに書かれた几帳面な文字を見るたび思い浮かべてしまう、そんな自分に我ながら驚きだからである。
その感情がまぜこぜになって、木場は照れくさくなる。
そして、そんな自分を引き出すメモを、何とはなしに捨てるのは出来ないで、机の2番目の引き出しの一角に仕舞うことにした。
けれど、そんなセンチメントな自分に対しての照れが、己の顔を仏頂面にさせるのは致し方ない事だ、と自分で自分に言い訳じみた事を言い聞かせる、そんな引き金にもなる。
だから、今日もメモは捨てられることなく、仕舞われる。
健康診断の結果用紙を貰いに行ってきます。
先輩の分も貰ってきます。
今日のメモにはそう書いてあった。
どうせ先輩、自分から取りに行かないでしょう。
童顔の外見の通りに、学生のような事を苦笑しながら言う青木が思い浮かぶ。
そして、貰ってきた用紙を渡すときに見せるであろう、年下の部下のあどけない微笑みが思うともなく脳裏に浮かび。
…俺の柄じゃあねえな。くだらねえ。
と、一人自嘲し、鼻から息を強く吹いて。
傍らの煙草に手を伸ばした。
それでも木場は、次のメモ用紙を心の奥で心待ちにしている。
自らそれにフタをしながらも、それでも待つ木場は確かに居るのだ。
だから、今日もメモは捨てられることなく、仕舞われる。
end.
Afterword
豊島署時代の片思い期間と脳内設定。温度と対になっているような、いないような。
えーと、じゅうぶん木場も乙女な感じ、と言う事で。まあ物捨てないらしいですし!あの人繊細なのにワザと強がる人だから!…てか、すみませんこんな木場で。
年末大掃除の度に、ためちゃってる自分に凹んで、そして元あったところにそっと仕舞って欲しい。結局、警視庁にも麻布にも持っていって欲しいなあ。事務封筒とかにゴッソリ入れて。メモは見返す訳ではなく、ただひっそり引き出しの奥に、存在として入れて欲しいんだ。そんで麻布で、ふとメモの事とか思い出して、文蔵思い出せ!(なんなんだあんた)