レンズ

 鳥口は記録写真を撮るのであって、被写体は人間ではない。
 一時期写真家を志した事もあったのだが、人を撮る事は稀である。
 けれども時折。
 撮ってみたいと思わせる人が、鳥口の視界に入る。
 そうして、鳥口は高揚感とともに、眩しい被写体へ向けたファインダーを覗くのだ。



「ねえ、鳥口君」
「あ!そのまま、そのままでいて下さいよう」
「ん…」
 生真面目に抗議を止め、被写体は口を噤んで固まる。
 レンズがくく、っと動いて絞られる。
 カシャ、とシャッターの乾いた音が、荏原は支那蕎麦屋の二階の一室に響く。
 今日幾度目のシャッター音だろうか。
 ともかく鳥口はシャッターを押す。

 別に言葉は写りゃしませんよう、と可笑しそうに鳥口はカメラを降ろして笑いかけた。
 そんな所も、可愛いんだけどなあ。
 などと不埒な事を思いながら。
「で。なんスか?」
 中断させた言葉を促す。
 その促された相手は、丁度腹這いから身を起こそうとした所を止められ、中途半端な体勢のままでいたのだが、その言葉を合図に上体を起こし、ぺたりと畳に座る。そして、不思議そうに小首をかしげながら鳥口に問う。
「なんで…僕を撮るんだい?僕なんか撮っても面白くないでしょう」
 その傾く不思議そうな顔に魅せられて。
 答えの代わりにもう一度、慌ててシャッターを押す鳥口であった。

「あ、また。…鳥口くんてば」
 質問に質問の根幹で返されてしまったので、少しむっとした声だ。
「面白いッスよ。そんなに卑下せんで下さいよう」
「だって…朝一番にいきなり、『今日一日写真に撮って良いですか』なんて、さ」
 勢いにのまれて「うん」とか言っちゃったけど、と逡巡する言葉に鳥口は慌てて言葉をかぶせる。

「撮りたいんすよ僕ぁ。青木さんを」
 そう言うと、更に小首を傾げられた。





 昨日、鳥口は益田と青木と揃って呑んだ。
 たまたま鳥口の下宿に近い所で呑んでいたので、鳥口がぐっすりと幸せそうに眠り込んだ青木を下宿に持って帰ったのだった。
「可愛いなあ、もう」
 鳥口の布団で幸せそうに熟睡する青木の寝顔は、とても無邪気な子供のようで、気付いたら鳥口の手はカメラに伸びていた。
 カシャリ。とシャッターを切る。
 その瞬間、青木の形良い眉がぴくりと動いた。シャッター音が聞こえたかのように。
「うへ…」
 思わず固まってしまった鳥口だったが、青木は起きることがなく、良い夢でも見ているのか寝返りを打ちながら微笑んだのを見届けると、安心したように弛緩した笑顔で大きく息を吐いた。
「はあ、吃驚した…へへ」
 何に笑ったのかもよく判らない笑いは、鳥口自身の心を擽ったくさせた。
 頭を掻きながら、座り直してカメラを眺めた。
 
  いい顔、撮っちゃったな。
 明日−青木さん非番だっけ。一日撮らしてくれ、ッて言ってみようか。ダメ元で。
 そう思いながら、もう一度青木を眺める。
 鳥口より年上とは思えない童顔。気持ちよさそうに閉じられた一重の目は、縁がほんのり赤くて顔に似合わず徒っぽい。
「こんなんなのになあ。どっちがホントの青木さん、なのかなあ」
 少し大きめの頭をふんわり撫ぜた。サラリとした長めの髪が手に心地良かった。
 暫く撫でていたものの、惜しげに手を離す。欠伸が出たからだ。
 傍らの卓袱台にカメラを置き、鳥口は立ち上がって電気を消した。
 真っ暗になる。
 うう、と大きく背伸びをしてから青木の隣に潜り込む。
「うへえ、暖ったかいなあ」
 青木の体温は暖かくて、とても気持ちがよいものだった。
 優しく、その華奢な体を抱き込む。これで警視庁は花形部署・捜査一課の猛者とは思いもよらない。表に見えないだけで、そのぶん内部に猛者ぶりが詰まっているのだろう。不思議な気もするし、当然だとも思った。
 青木のおでこに、ちゅ、とキスを落とす。
 先ほど嬉しそうに呟いた言葉に、鳥口はもう一言付け足した。
「…どっちも青木さん、か」
 
 
 ちゅんちゅん、と言う鳥の鳴き声で目が覚めた。
 そんな気がした。
 ぼうっ、と鳥口は寝起きの頭を反らした。もぞ、と胸の辺りで暖かいものが動く。
 見ると昨日と同じ、幸せそうな青木の寝顔があった。
 それを見て、鳥口の顔は笑顔が抑えられない。思わず抱き寄せる。
「ん…」
 青木が起きた。
「うへえ、起きちゃいましたか」
「あー…とり、ぐちくん」
「おはようございます」
「…おはよー…。あれ、ここ…?」
「僕んちッスよ。青木さん昨日潰れちゃったでしょ」
 どさくさに紛れて腰に手を回す。細い。
「ん…。いま…何時?」
 少し枯れた声が、なんだか艶ッぽいじゃないか。そんなことを思いつつ、鳥口は柱の時計を見やる。
「っと…今、ああ早起きッスね僕ら。6時前ですよ」
「じゃあ…もちょっと、さんじっぷん…寝させて…」
 もそもそと鳥口の胸に顔を埋める。
「うへえ。…なんですか青木さん。可愛いじゃないッスか〜」
 鳥口は感激して天井を仰ぎ、一人脳天気に呟く。

「青木さん、青木さん」
 頬杖をつき、青木の寝顔を眺めながら、だらしのない笑顔で鳥口は声を掛ける。
「…んぅ?」
「起きて下さい、30分経っちゃいましたよ。まだ眠いッスか?」
「あー…。んぅん…おきる」
 鳥口の方へ体ごと向き、青木は小さく欠伸する。
「じゃあ、起きましょ」
 言いつつ、体を乗り出して青木の耳の後ろへキスを落とす。
「ふわ…。くすぐったいよ、鳥口君」
 身を捩らせ、力無く青木は鳥口を押し戻す。
「あ、酷いなあ青木さん」
 笑いながら鳥口は哀れっぽく訴える。
「だって僕、ここ弱いって君は知ってるでしょう」
 むう、と頬をふくらませて、青木は朝から疲れたような顔をした。
「うへえ、僕ぁこう言うのにときめくんですよ、って青木さん知ってるでしょう」
 すっとぼけて言う。
 お互い顔を見合わせて、そして笑った。
「じゃあ青木さん、はい」
 鳥口は自分の耳あたりを指さす。
「なに?」
「お返し。あれえ、してくんないんスか?」
「う〜…。そんなもう、朝っぱらからなに言ってるんです」
 ぴしり、と青木は叱る。まるで、子供の我が侭をあしらう先生のようだ。
「うへええ。朝ったッて、僕んちなんスからぁ。ここにゃあ僕と青木さんの二人だけー。
誰が見てる訳でも無しの、幸せな密室じゃないスか」
「密室って…」
 青木が顔を真っ赤にして言いよどむ。
「ね?」
 屈託のない笑顔で鳥口が促すから。
 青木はため息をついて、諦めたように目を閉じた。そして、ふわりと上体を起こして手早く鳥口の耳の後ろにキスを落とし、青木は大儀そうにころりと転がった。子供が神妙にしているような、そんな子憎い顔で。それでも、その顔は真っ赤な所が鳥口を余計ににやけさせる。
「よくできました」
 教え込んでおいて良かった…!
 鳥口は上機嫌で起きあがり、青木の頭を撫ぜた。
 気持ちよさそうに目を閉じ撫でられている青木を見て、鳥口はいてもたってもいられず勢い込んで尋ねる。
「ねえ青木さん。今日非番なんでしょ?予定とかってあるんすか」
「ん?いや、特にないよ。いわゆる自宅待機なだけ」
「じゃあここで待機ってのはどうです。下に電話もあるし」
「ん…いいですよ。後で連絡して来なきゃ」
「ひゃあ、じゃあ一日この密室でおつきあいしてくださいよ」
「しょうがないなあ。密室詰めですか」
「爛れた生活、満喫しましょうよう」
「なんですかそれ。もう」
 上々だ。にんまりと笑った鳥口は続けて言う。
「お願いついでに、もう一つ訊いてください」
「なんです?」
 一重の瞼が、ぱちぱちっと瞬く。
「今日一日ですね、青木さん撮らせてくれないッスかね?」
「へ?」
「写真ですよ写真」
「写真…僕を?」
「そうです」
 不思議そうな顔で、きょとんと見詰める青木を、鳥口の親指と人差し指で作られたファインダー越しに見る。
「そりゃあ別に構いませんけど…」
 そう言った後、照れくさそうに青木は笑った。
「なんだか照れくさいなあ」
「照れくさい事ないッスよ。ばんばん撮りますからね」
「そんな、ばんばん撮らなくたって良いよ。…さ、起きようか」
 苦笑しながら青木も起きあがる。
「そう言えば鳥口君、前にもそんなような事言ってたよね」
「ぜひとも今が絶好の機会ってヤツですよ」
 
 それから宣言通り、ばんばん撮っている鳥口である。




「あぁフィルム変えないと」
 フィルムを回していた鳥口はカメラ機材の入ったケースを持ってきて、ゴソゴソと換えの新しいフィルムだのを取り出す。
「そんなに撮ったんですか?」
 青木が少しばかり呆れた声で問う。
「まだ青木さんは9枚しか撮ってないですよ。でもこれ12枚撮りッスからねえ。こないだフィルム一気に買いだめしておいて、良かった良かった」
 うきうきと答える。
「7枚『も』だよ…。…ふうん」
 青木はじっとカメラを見詰める。なんだか昆虫標本を見詰める子供のような、そんな真っ直ぐな好奇心一杯の目で。それに気付いた鳥口は苦笑して尋ねる。
「気になりますか?」
「うん。だって、プロの本格的なカメラなんて、使った事ないもの」
 こないだ鑑識のカメラを見せて貰ったけどなんか凄いよねえ。鳥口君のも。
 青木は感心したように言う。
 基本的にはどれもカメラは同じですよう、と言いながら鳥口は機材を持って青木の後ろに座った。
「ん?」
 キョロキョロと青木は身を反らして鳥口を見る。
「青木さんは特等席で」
 そう言いながら、青木の体を後ろから引いて、ころりと自分の膝の上に上半身を納める。
「わわ…?」
 一瞬自分がどうなったのか、理解出来ていなかった青木は、鳥口を見上げ、
少しの間きょとんとしていたが、しょうがないなあ、と擽ったそうに笑った。
「じゃあ特等席で見ましょう」
「うへえ、青木さんもノリますねえ」
 鳥口は新しいフィルムを青木に渡しながら可笑しそうに笑う。

 カシャ、カシャと機械の音が心地良い。
「青木さん、フィルム。120ブローニー12枚撮りッスよ。で、今度はこっち。新しいヤツ」
「ブローニー…?あ、はい」
「そうッス。このカメラのフィルム。フィルムにもカメラごとに色々あるんスよ」
「へえ…じゃあこれがこのカメラの。で、これ撮ったヤツかぁ」
 しげしげと、青木はそのフィルムを眺めた。
「そうっすよ。青木さん撮った、大事な大事なフィルムっスよ」
「もう…恥ずかしいよ。…あ」
 苦笑していた青木は、ふと思い出したように声を上げる。
「なんスか?」
「そう言えば鳥口君。結局質問に答えてないじゃないですか」
「へ?」
「だから、なんで僕を写すのか、ッて」
 そう言えばさっきそう言われたっけ。
 写したフィルムをケースに入れながら、鳥口は苦笑した。
 青木には鳥口のその反應が不満だったのか、いくらか憮然として鳥口の手からカメラを受け取ると、それを両手で大事に持ちながらカメラに向けて零す。

「知ってますよ僕」
「何を?」
「鳥口君、君現場でも偶に僕を撮ってるでしょう」
 そう言って、青木は首を回して鳥口の顔を見据える。
 おやおや。
 鳥口は思わず青木の顔を覗き見る。
 そんな真っ直ぐな瞳を向けないでくださいよ、なんだかくすぐったい。
「うへえ、知ってたんですか」
 そう言って鳥口は笑いながら頭を掻く。
「まいったなあ」
 ばつの悪いような、擽ったいような、恥ずかしいような、吹き出したいような気分だ。



 事件現場で、幾度と無く青木を撮った。
 立ち入り禁止の縄の向こう、白い手袋でキビキビと動き回っていた青木を、仕事の合間にこっそりと撮った。バシャリと大きなフラッシュを焚いて、下向く他の記者らのカメラとは別に、顔を起こして童顔の刑事を撮った。
 どさくさに紛れて撮ってたから、気付いていないと思った。



「気付きますよ。だって、強いんですもん」
「なにがです?」
 鳥口が聞き返す。
 くるりと青木は前を向き直し、もう一度カメラを抱えた。
 とんとん、と立てられた膝同士を当てる様を、鳥口は一、二、三、と数えた。
 ぽそり、青木が呟く。
「…ファインダー越しの視線」
 


「うへえ…」
 我ながら間の抜けた声を出した。
 だって、思いもよらない言葉だったから。
 鳥口の頬が、かあっと熱くなる。
「青木さん…」
「ん?」
「なんつー可愛い事言うんですか、この人はっ」
「うわあ!」
 ぐいんと青木の両脇を掴んで引き上げる。そして自分の膝の上に座らせて、後ろから痛い程ぎゅうっと抱きしめた。青木の細い頸筋に顔を埋める。青木の頬もまた熱くて、鳥口は余計に有頂天になる。
「と、鳥口君ッ、痛い!痛いってば!」
 青木が藻掻く。でも腕には鳥口のカメラを抱いたまま。
「あ…すんません」
 勢い余った腕の力を緩めるが、抱いたままだ。
「ふわ〜。ああ、もう吃驚した。いきなり凄い勢いで引き上げるんだもん。しかも痛いし。鳥口君、力あるんですから」
 ふはあ…大きな息を吐いて青木は抗議する。でも、怒ってはいない。
「いやあ、思わず」
「思わず…ッて。なに言ってんですか」
 首を捩って鳥口を見る。
 そして。

 同時に二人で吹き出した。
「青木さん、すいません。許して貰えます?」
「しょうがないなあ。いいよ」
「そりゃありがたい」
 言いながら青木の小振りな頤を捕らえ、持ち上げた。青木がその動きに沿って体をねじろうと思った瞬間、鳥口の接吻が落ちてきた。
「ん…」
 青木は瞬きをして、鳥口の精悍な顔を間近に認めてから、緩慢に目を閉じた。



 ちゅ、と小さな音を立てて、唇が離れる。
 鳥口がそっと目を開けてみる。視界には、ぼうっと潤んだ青木の瞳と、濡れた唇。
 もう一度身をかがめ、鳥口はその青木の濡れた唇をひと舐め、ぺろりと舐めた。
 そして、優しく青木に囁いた。
「青木さん…どうして、僕が青木さんを撮りたいか、知りたいですか?」
「ん、そりゃあ…まあ」
「じゃあまあ、論より写真です。見て下さいよ」
 ちょっと立ちますよ。そう言って、青木の腰を、軽く叩く。
 こんな細いのに華奢なのに、猛者の捜査一課刑事だもんなあ。
 鳥口は不思議に思う。
「あ、ごめん」
 ころんと青木は膝から降りて、畳にぺとりと座った。
「えーっと、ですねえ」
 言いながら、鳥口は棚の方へ向かい、二冊のアルバムを取り出す。
「これとこれッスよ」
「なになに?」
 鳥口は一冊のアルバムを開き、青木に示した。


「あ、これ」
「こないだ中禪寺さんとこでみんなで撮った写真です」
「そうそう、あの時榎木津さんと木場さんが組み合って、中禪寺さんが凄く怒って」
「これですな」
「良く撮れてるよねコレ。…うわ、中禪寺さん怖い…」
「これなんか、関口さん踏まれてますよ。…って、そうじゃないんですよ、これ!」
 鳥口が指さした写真は、座敷に座った青木が、カメラに向かって振り向いている写真。
「これ…僕だ。前貰ったよね、この写真」
 はにかむようにふんわり微笑む童顔の青年は、楽しげに優しく印画紙に写っている。
「そうッスね。…これがいつもの青木さん」
 これと。そう言って鳥口はもう一つのアルバムを開く。
「これも、青木さん」
 そこには、とある現場で白い手袋を嵌めている樣子の青木が写っていた。
 初々しい青年がまなじりをきりりとあげ、真剣な表情で横を見詰めている。
「…これも」
 青木がぽそりと呟く。
 鳥口は足を組み直し、胡座をかくと、その二つの写真を眺めながら話し出した。


「僕ぁね、青木さん。これでも昔は写真家ってのを目指してたんです」
 青木が顔を上げる。
「まあ勿論それで喰ってくってのは難しいですからね、それでも写真撮れる今が有り難いッスよ。取る対象も今は報道写真で、かなり変わっちゃいましたけど」
 だから僕の撮る写真は、記録写真であって、被写体は人間じゃない。
 鳥口は、念を押すように靜かに言う。
 それは青木に念を押したのか、自分に念を押したのか。青木にも鳥口にも判らない。
「それでもね」
 鳥口は続けた。
「偶に、どうしても撮りたくなっちゃうような、そう言うモデルって、出会うんですよ」
 そして青木の顔を見ると、はにかむように笑った。
「人って、色んな顔持ってるじゃないスか。写真って、結構写っちゃうもんなんです。
楽しい時、哀しい時とか怒ってる時とか」
「うん…」
 青木は靜かに相槌を打つ。
 それを聞いて、鳥口はどこか安心したようにため息をつき、笑って言った。
「可愛い童顔で、学生みたいなふんわりとした初々しい普段の姿、厳しくて男らしい一生懸命に仕事する凛とした姿。これが一人の人の顔なんて。別人じゃないスか。でも、どっちも魅力的だったんスよ。青木さん」
「僕、が?」
「そうです。なんだか正反対の顔を持ってる、不思議なひと」
 だから、その人の写真を撮りたくて、たまらないんですよ。
 鳥口は嬉しそうに楽しそうに微笑んだ。


「…ん、と」
 真っ赤になって俯向いた青木は、長い沈黙の後に漸く言葉を絞り出した。
「そんな…恥ずかしいですよ…。僕、そんなに大層なもんじゃないし」
 照れてるんだ。
 鳥口は一人北叟笑むと、青木の顔をのぞき込む。
「ね、だから撮りたいんス。仕事の顔は仕事ん時しか撮れないけど、その他は。…良いでしょう?」
 すると、暫くして青木が意を決したように顔を上げた。
 顔を真っ赤にして、面接試験を受ける学生のような顔で。
「おねがい、します」
「喜んで。良い写真撮りますからね」
 そう言って鳥口は青木の華奢な体を、嬉しそうに抱きしめる。

 



 正直言って、あのファインダー越しの視線が。
 僕の心をゾクリとさせて、体の芯を甘く痺れさせるのに、虜になっちゃったから、なんて
そんなの恥ずかしくって…言えやしない。

 青木は憮然とした顔をその子供のような顔に無理矢理作って、ため息をついた。
 


 
「それと、もう一つ欲を言いますとですね」
 鳥口は思い出したように、飄飄と言い始めた。
「僕は、正反対の二つの顔をいっぺんに撮りたいんです」
「いっぺんに?」
「そう。どっちも併せ持つその顔、どっちもひとつのファインダーに写す事が出来たら、
僕の写真の、いわゆる芸術ってヤツになるんスよ」
 鳥口はそう嘯くと、腕をゆるませて。


 ちゅ、と小さな音を立てて青木の額に接吻した。



                                                             end.

Afterword

うーんと。お題が「レンズ」なのに、これじゃ「ファインダー」。まあカメラ繋がりって事で。
鳥青でございますヨー!鳥口青木。年下攻め。オオカミ鳥ちゃんにこひつじ文蔵。元気な年下記者に翻弄される、純情童顔刑事。なんつーか…どっちも懐いて懐かれて、ッて感じに。でも色んな悪い事は鳥ちゃんが文蔵に仕込んでます。
今回、輪を掛けて激甘いです。なんだかこのカプはいちゃつきっぷりが激しいです。どっちも犬のイメージがあって。じゃれ合う感じ。でも文蔵は純情箱入りわんこですから!(箱=警視庁)普段は無自覚でじゃれるものの、意識しちゃうと恥ずかしがる純情ッ子であって頂きたい!…と、鳥青ってダメッすか??同志せつに求めます…。まあ需要は非常に低そうですが、普通に続行する所存です(笑)。。
今回の鳥ちゃんのカメラは『マミヤシックス IV型』。マミヤ光機から1947〜53年製造されました。現代でも実用機として十分通用する一級品だそうですよ。カメラ詳しくないんでアレなんですけど、ちょっと欲しいの。鳥ちゃんに使わせたのは、特に意味無し。一番最初にフィルムの種類が判ったから(おい〜)。
鳥ちゃん、「うへえ」言い過ぎ。鳥ちゃんが『記録写真を撮るのであって〜』は適当です…。まあ、雑誌カメラマンの今だったら、こんな感じじゃなかな、と。









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