静か

 その日はやたら寒かった。


「う〜さみぃ」
 曇天の冬の朝に、木場の吐く息が白く現われては消える。知らず眉間にシワを寄せながら、襟巻をきつく巻き直した。
「せんぱーい」
 馴染みのある声に振り向くと、青木が頬を林檎のように真っ赤にさせて、白い息を弾ませながら走ってきた。すぐ近くの警察寮から丁度出てきたところらしい。
「木場さん、おはようございます」
 青木は屈託ない笑みで挨拶する。童顔をマフラーに顔を半分うずもらせて零れるような笑みを見せる青木は、まるで子供のようで、木場は可笑しいようなくすぐったいような気がして、そしてその感情に戸惑い。ふん、と鼻から仏頂面で息を吐く。
「おう。なんだ今日は、バカに寒いじゃねえか」
「なんか、この冬一番の寒波だって朝、寮母さんが…っしゅん!」
 クシャミが会話を最後まで言わせてくれなかった。う〜、と青木は小さくうなって鼻をこする。
「おいおい、風邪引いたのか?こら青木てめえ、刑事は体が資本ってっただろが」
「ん…。いえ違うと思うんですけど、やだなあ風邪引いたら」
「…俺のロッカーに、ベスト入ってっから、それ着とけ」
「…はい!」
 素っ気無い素振りで木場は言ったつもりだったが、青木の一瞬驚いたような顔が、はにかんだ笑顔で返事する彼を見て、改めて木場は恥ずかしいようなこそばゆいような心持ちで、照れ隠しに唇をへの字に曲げた。


 運が悪い。
 この冬一番の寒さの今日、木場と青木は午前中いっぱい寒空を歩きっぱなしで調査のため、都下の所轄署を渡り歩いていた。そのおかげか、思った以上の成果が得られ、二人はそれでもホッと安堵のため息をついた。
 ようやく人心地付いた午後の一時。刑事仲間と昼食後の茶を皆で啜って、世間話に興じている時だった。
「先輩…」
 先ほどから黙ってゆっくりと差し入れの蜜柑を食べていた青木が、不意に呟く。
「ん?なんでえ」
 こちらも蜜柑をほおばっていた木場が、横に座る青木へと振り向いた。
「先輩って、小さい頃なんでしたか?」
「…子供でした」
 唐突な、意味不明の質問に、木場は面食らいながら思わず敬語で答えてしまう。
「青木?突然どうした」
「なに言ってんのー青木ちゃん」
「木場だって、ガキだっただろ。小せえ時分は」
「いやあ、ガキの頃からこんなごついオッサンだったら怖ええよ」
 口々に同僚刑事が、おかしそうに笑い出す。
「あ、間違えた。大きくなったら、何になりたいですか?」
 小首を傾げ、そのまま青木は斜め下から木場の顔を覗き込むような格好で、またピントのずれた質問をした。どうやら、特に笑いを取るためでもない。もともと青木は、そのような芸風ではないのだが。
「…もう大きくなって、これなんだがな…」
 面食らった木場は、その青木のペースに引き込まれて真面目に答えてしまう。
「あれ?」
 反対方向へ首が傾げられる。極めて真面目な顔だったが、木場にはこの童顔の青年の頬はいつもの紅顔がさらに赤く火照っており、なんだか目の端が潤んでいるようにも見えた。
 くしゅん、と青木が小さなクシャミをする。木場にはその原因が何となくわかった。
「青木君、『小さい頃何になりたかったですか』じゃないかな?」
 同僚の一人、岩川がまるで先生が生徒に窘めるような口調で、青木に模範解答を教えてやる。
「あ、そう、です。それ」
「あー。なんだ青木、そう言いたかったのかぁ。おじさん、青木がおかしくなったのかと思って、ビックリしたぞ」
「小首なんて傾げちまいやがって。可っ愛いじゃねえか」
「青木、写真とって良いか写真!おいこら鑑識班、暢気に煙草すってんな!シャッターチャンスだ」
「なんか色々言葉が混ざっちゃったのな、どうしたんだよ青木。お前らしくないなあ」
 一様に青木びいきの同僚刑事達。脳天気に青木をいじる同僚刑事の中、木場は不機嫌な顔で頭をガシガシと掻く。
「…熱あるな、寮帰って寝ろ」
 え?と青木が木場を見上げる。やはり、顔が赤い。
「えー青木ちゃん熱あるの?…っと」
同僚の一人が、青木の額に手を当てる前に、木場が無造作に青木の頭を額と後頭部へ手を当てる。そんな木場に、手を当て損なった同僚が、残念そうな声で声を掛ける。
「あー。木場ずりぃぞぉ」
 そう囃す彼の顔は、ニヤニヤと楽しそうなのだが、木場はそれに気付かない。青木は、木場の大きな手の冷たい感触に気持ちよさを感じて、身体を預けた。
「なにがずりぃだ、このスカポンタンが。おい、結構熱あるなこりゃ。ったく、やっぱり言った通り、風邪じゃねえか」
「…ちゃんと、先輩のベスト借りたんですよ」
 青木は力無い声で答える。
「なに木場、お前知ってたの?青木が風邪気味って」
「朝にクシャミしてやがったからな」
 木場が答える。額に触る手には、思いの外熱い熱が伝わっており、内心酷く動揺している時分に、木場は驚く。
「昨日の夜から、大寒波らしいからなあ」
「だったら今日俺が代わりに行ってきたのに!」
 若手刑事が心配そうに言うと、隣の相棒刑事がスパンと頭を叩く。
「ふふふー…。地獄の一万枚リスト再調査、逃げるんじゃねえよ…!」
「大野んとこ大変だな…・。でも、やっぱりさ青木、午前中って外回りやってたから、身体冷えたんじゃねえの」
「だろうな。ほら青木、ストーブんとこ来い。水分補給に、蜜柑食べろよ」
「寒気するなら、これ掛けとけ」
「くすりくすり…医務室に聞いてみるか」
 かいがいしく皆が心配してくれるので、青木は恐縮してしまう。同僚達の暖かさに感謝しながら、青木はそれでも笑って答える。
「あ…大丈夫です。大したことないですよ」
 言いつつ、立ち上がると、ふらついてへたり込んでしまった。
「…あれ」
「どこが大丈夫だ、このボケ」
 木場が実に大儀そうな顔で、手を差し出す。
「うーん。青木、今日は暖かくして寝てなさい」
 刑事部長が最終判断を下す。風邪といえども侮れない。

「とりあえずそこのソファで寝とけ」
 木場が今書いている書類を書き終えたら、寮まで送ってくれることになった。
「はあ…すみません」
 青木は、頭がふわふわとふらつく感覚に耐えながら、待合い用のソファに横になる。部長がブランケットを貸してくれ、ストーブも近くに置いてくれたので、暖かさと頭の不安定な感覚に飲まれるように、眠りに落ちてゆく感覚をはっきりと感じた。ちょうどそれは、一枚の羽毛がふわりふわりと宙を舞う様に似ている、と青木は思った。
「…はい、どうもありがとうございますー。…木場あ」
 電話を切った同僚が木場に声を掛ける声が、聞こえる。
「あ?なんでえ」
 明らかに、苦手な事務処理に難航している時の不機嫌な木場の声である。
「今内線で医務室掛けたら里村先生が出てさ、すぐこっちに来てくれるってよ」
「んだあ?なんでウチの署に、あいつがいるんだよ」
「さあ…?知んね」
 木場はいかにも迷惑げな顔をしたが、いちおう彼奴も医師免許持ってるし解剖じゃないから大丈夫か、と思い直した。

「やほー。青木ちゃん、風邪引いたんだって?」
 黒いお医者さん鞄を持って、里村は快活に挨拶しながら刑事部屋になってきた。
「よお変態医師、今日はウチから検死依頼出してねえぞ」
「なに、その挨拶。たまたま今日は、ここの医務の高畠先生に用事で来たんだよ。そうそう聞いてくれる木場君?こないだすっごい検死でねえ。まるっと焼けちゃった奴の」
「うるせえよ!さっさと診ねえか!」
「…里村先生、我々一応食後なんで…」
「あそう。じゃ、今度聞かせたげる。さあ青木君、具合はどう?」
 全く罪悪感のかけらもない、むしろ本当に嬉しそうなところが、話の腰を折ってしまって申し訳なかったかな、と聞かされる者が思ってしまうところすらあるのが、里村の怖いところだ。
「あ、里村先生?え?お薬いただくだけじゃないんですか?」
「一応キチンと診察した方が良いでしょ」
「そうだぞ青木、万一お前に何かあったら大変だからな!」
 他の刑事たちも声を揃えて言う。
「もしかしてお医者さん嫌いなのか?」
「注射…は嫌いですけど」
 尋ねられ、青木は眉をしかめて思わず零す。
「か、可愛い…!!」
 うおおおん、とギャラリーが盛り上がる。なぜかその盛り上がりが気に入らない木場と、たじろぐ青木。
「え、だって、里村先生って仏さん専門じゃないんですか?」
「やだなあ、木場君この子にちゃんと言っといてよ。そうできたら、とってもとっても幸せなんだけどねえ、これでもキチンとした外科医ですよ、僕ァ」
 ぷん、と頬をふくらませて怒った仕草を見せ、里村は笑った。
「俺も疑わしいと思ってるけどな」
 木場が鼻を鳴らす。
 診断はやはり、風邪で静養を言い渡されたのだった。


「あらまあ。どうしたの?」
 ぎい、と寮の扉を開ける。ちょっとしたロビーになっている玄関では丁度、寮母婦人が回覧板を持ってきた近所の主婦と談笑していた。
「青木君じゃないの、その子。どっか具合悪いの?」
 寮母のおばさんが尋ねる。
「風邪だよ風邪。ちょっと熱出してんだ、こいつ」
 何度か青木の部屋に来たことのある木場は、顔なじみの寮母へ顔をしかめつつ答える。
「まあ…そりゃ大変。今日は寒いからねえ」
「医者には行ったかい?」
「ああ、さっき一応診て貰った。薬貰ったから大丈夫だろ」
「なら良いんだけど…あ、看病は木場さん、あんたがするかい?暖房の種火分けてあげるから、管理人室に後で取りにお出で」
「おう、すまねえな」
「…どうも、すみません」
 青木が弱々しく詫びる。くったりと、木場にしがみつく格好である。支えるその腕だけが、青木にとって今頼れる全てである。里村に薬を貰ってすぐ、飲んだ所為で眠いのだろう。
 階段を上がり、やっとの事で部屋に辿り着く。
「っと…よし、青木。ちょっと待ってろ」
 部屋に付いた途端、青木の気が幾分か緩む。かくんと膝が折れる気配に気付いた木場が、慌ててゆっくりと床に座らせてやる。熱の所為で頭がくらくらする青木は、まともな平衡感覚を失っており、へたりと畳に突っ伏す。畳の冷たさが、気持ちいい。
 もしかして。結構、熱あるみたいだな、僕。
 青木は他人事のように思った。
「先輩、迷惑掛けてすみません…」
「バァカ。…黙ってろ」
 木場は振り向くと、バツの悪そうな渋面で青木に答える。改まって云われると、照れるのだ。木場は押入を勢いよく開けて、手際よく布団を敷き始める。
 もしかして。照れてるのかな?
 青木は木場の不機嫌そうな顔を見て、何となくそう感じた。気分を害した顔をしているのだが、青木にはなんだか照れ隠しのように見えた。
「とりあえず着替えて寝ろ。…寝間着これだな。こっち来い」
 勝手知ったるなんとやら、木場が行李の中から青木の浴衣を取り出して、掛け布団をまくった布団の上に軽く投げる。
「はい…」
 もそもそと青木が這ってくる。布団の上まで来て座り込むと、危なげな手つきでマフラーを解く。外套のボタンをはず等と、青木はボタンに手を掛けるが、熱に浮かされて軽い眩暈の起こる頭では、行動を制御する力も弱っているのか、かしかし…とボタンが巧くはずれない。青木は己の体機能の悪さに驚く。
「あれ…?あれ?」
「あーもういい。貸せ」
 木場が唸って、コートのボタンを外して脱がせてやる。
「先輩」
「なんでえ」
 青木はなんだか、こういわなければならないような気がして、コンコンと咳をした後に、呟く。
「優しいんですね」
 つまり、嬉しかったのだ。
「…うるせえ」
 押しつぶされたような木場のドスのきいた声は、絶対に照れている。天の邪鬼だからなあ。そんなことを心のどこかで確信して、青木は熱の作り出す眩暈に、飲み込まれていった。

 スーツと外套がシワにならないように、ハンガーに掛けてやる。ついでに自分の外套と背広を掛けて、青木の方を振り向くと、昏倒している。
「おい…あお」
 思わず漏れた声が、ずいぶんと狼狽した声だと木場は我ながら感じ、奥歯を噛みしめる。青木の傍らに坐り、仰向けにして額に手をやってみる。熱い。ふう、と短いため息をついて、木場は着替えさせてやることにした。
 とりあえず青木の躰を膝の上に載せる。しゅ…と音を立ててネクタイが滑る。ワイシャツのボタンを外してゆくと、均整の取れてはいるが、恵まれた体格でもない青木の躰が露わになる。色白の青木の躰は、熱の所為かほんのり上気していて、木場はそれを認めると−動揺する自分に動揺した。
 …なんだってんだ。
 自分で自分を恫喝したものの、少し早めの呼吸で上下する青木の薄い胸板に木場は知らず、手を触れさせようとした。

 その時。

「木場さん、種火持ってきてあげたよ。やっぱり早きゃ早いほうが良いもんねえ」
 びくう!
 寮母のおばさんが突然、扉を開けてやってきた。
 木場は思わずそのまま固まってしまう。
「…あらあら、ゴメンね」
 おばさんの言葉に、木場はカクカクと首を動かして扉の方を見やる。なぜか回覧板を持ってきた主婦までいた。
「ち、ちげえよ!これはだな、ただ着替えさせてやってただけで…!」
「マメだわねえ。木場さん。うちの宿六にもそんな甲斐性あればねえ」
「明治生まれは頑固って聞こえはいいけど、ただ融通効かないだけだからねえ」
「ホントホント。はい。炭、ここに置いとくからね。あ、そうそう、木場さん今日泊まってくのかい?」
「…ん、まあ一応な」
「じゃあ、あんたの分も夕飯作っとくからさ、6時ぐらいに食堂に取りにお出で。青木君にはお粥ね」

 世間話のネタにされた挙げ句、にっこりと微笑まれて、木場は拍子抜けする。どうやら自分だけが空回りだったようだ。婦人方は微笑みながら扉を閉めた。
「…ありがとよ」
力なく応えると、木場は一人空回りした恥ずかしさのあまりに低く唸る。まあ、扉を閉めた後の廊下で御婦人方がお互い顔を見合わせて意味ありげな笑みを交わしたことなど、現時点では知るはずもない、鈍感と言うよりもお人好しの部類に入る木場である。   


「…ん」
 青木が再び目を覚ます。ぼんやりとした視界から、ゆっくりと商店があって、天井の木目を認識した。目を擦っていると、木場に声を掛けられる。
「おう、起きたか。どうだ、ちっとは楽か?」
 声の方に身体ごと向くと、布団の近くにちゃぶ台を置いて、木場が書類を広げて書き物をしていた。ことん、と万年筆を置く音がした。慌てて起き出そうとすると、木場に止められた。額にあった濡れ布巾が、ぽろりと落ちた。
「あ…はい、さっきよりはだいぶ」
 結局、うつぶせで枕を抱いたような格好になった青木が改めて声を出すと、少しかすれた声になった。
「喉、きたか」
 木場が気付き、傍らにある急須から湯冷ましを注いで、青木に渡す。青木は礼を言いながら、一息飲んでしまう。思いの外、喉が渇いていたらしい。青木の側にしゃがんで飲み干した湯飲みに、再度湯冷ましを入れてやった木場が、青木の額に手をやる。さら、と綺麗な直毛が木場の手を撫でて、くすぐったかった。
「熱は、まだちょっとあるな。ま、さっきよりはましか」
 当てられた手が、青木にとって心地よくて、手が離れるのが惜しかったのは、青木だけの秘密である。
「はあ…いろいろすみません。着替えとか」
 一瞬、妙な顔をした木場だったが、頭を掻きながら答える。座り直して、胡座を掻く。
「あ…ああ。かまわねえよ」
「木場さん、もしかしてそれ、さっきの仕事持ち帰りしてきたんですか?」
「ん?いや、いちおう書き上げたことは書き上げたんだがよ、どうもちょいと気になったからな」
「じゃあ終わってなかったんですね。…本当にすみません」
 仕事を早く切り上げてまで傍らにいてくれたことに、青木はすまないという気持ちと共に嬉しさが込み上げてきてしまうのが、自分でも押さえられない。
 どうしよう…迷惑掛けて、いけないことだけど、嬉しい。へへ…と、青木は顔を伏せて両手で頬を挟みながらその影で、小さく微笑んでしまう。
「おい、気にすんなって。…なんでえ、俺が仕事持ち帰って悪いのか」
 なにか勘違いしたのか、木場はふて腐れたように毒づく。
「だって先輩、持って帰ってまで仕事しないでしょう」
「バカにすんな。…ごく稀にあらあ」
 ごく稀に、と正直に言うところに、青木はくすりと笑う。
「うるせえ、寝てろクソガキ」
「わ」
 ぐい、と青木の頭を押さえて、枕に突っ伏させる。
「もう…」
 青木はそれでもなぜか、嬉しかった。もそもそと布団に潜り込むと、額に絞りなおした濡れ布巾を置かれる。ひんやりとして、心地よい。
「きもちい…」
「そりゃ良かったな。俺はこれ、終わらしちまうから。さっさと寝ろ」
 くしゃりと頭をなぜて、木場はちゃぶ台に戻る。ふう、と短いため息が木場の口から漏れたが、その口元は少し嬉しそうに見えたのは、青木の錯覚だけではない。


 木場の万年筆を動かす音。
 時折かたかたと鳴る、火鉢の上の鉄瓶。
 それ以外聞こえない、とても靜かな時間がゆっくり流れる。それはとても心地よく。穏やかな時間だ。
 青木は、一人にっこりと微笑み、また眠りへと誘われていった。
 そして木場もまた、青木のあどけない子供のような寝顔を見て、幸せそうに、苦笑した。


 外ではいつの間にか、しんしんと雪が積もっていた。
 わずわらしい雑音を全て雪は、白く深く消してくれていた。












おまけ

 6時近くになったので、木場は食事を取りに食堂へ赴く。
「あ、木場さんじゃないですか」
「ホントだ。寮に引っ越してたのか?お前」
「ちげえよ。青木が熱出しちまったから、看病だよ」
「あああ青木が熱!?」
「よ、容態は?青木大丈夫なのか?」
 途端にざわつくギャラリー。詰め寄る同僚たち。
 その一種異様なざわめきに、木場もたじろぐ。
「な、なんでえ…!ただの風邪だよ風邪。それでも一応今日は看病してやらねえと。面倒くせえがよ」
 その言葉に、一同が反応する。
「それなら俺が代わる!」
「いや、俺が代わってやるよ木場!」
「僕明日非番ですので!」
「じ、自分にぜひやらせて下さいお願いします!」
「…てめえら」
 わあッと、木場に詰め寄る警官達に、怒鳴り返そうとした時。
「あんた達、青木君は木場さんのモンなんだから、人のモンに手ェ出すんじゃないの」
 お粥を持って現れた寮母婦人の一言に、木場は凍り付いた。
 そして、笑顔でお粥と、木場の分の夕食を盆ごと渡し、とどめの一言を放った。
「でもねえ木場さん。身体悪い時に無理させちゃダメよ」
 やっぱり、さっきの、誤解されてる!…って言うか、誤解って言うかよくわからんが。とにかく、あの行為は誤解されてる!
 大ブーイングの嵐の中、木場はよろよろと食堂を後にしたのだった。



                                                             end.

Afterword

豊島署時代で、青木君は寮一人部屋住まい設定。里村さんは出してみたかっただけです…。
あれだな。私は日常のありふれたことしか書けない。ダイナミックで幻想的な者を書いてみたいよ…とほほ。

『Twilight∞』清梁東さんリクエスト「木場青ほのぼの甘」ですが…すみませ…!なんかもうウチの木場さん、過保護オヤジのようです。甘いにも程がある…!!しかも遅筆ですみませんでしたが、こんなんでよかったら、清梁さん受け取って下さいまし…!!









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