はなみ

 益田は少しひんやりとした大理石の階段室を、ゆっくりと登って行く。
 その歩みは軽く、つまり彼は機嫌がよかったのだ。春の午後の、明るい陽の光があふれる踊り場に来ると、その明るさに釣り眼気味の瞳を少しだけ細めながら、口角をあげて再び登って行った。探偵社の扉を開けるために。

 からんと、ベルが鳴った。
「ただいま帰りましたあ」
「はぁーい。ごめんなさいよぅ、ちょーっくらお待ち下さいやあ」
 ざああ、と水音の向こうから和寅の明るい声がした。―ああ、誰か分かってないのか。 声は聞こえているものの、水音で何を誰が話しかけたかまでは分かっていないようだ。しばらくして水道と締める、きゅっと言う小気味のいい音がしてから、和寅が襷を外しながら少し小走りでパタパタ草履の音も軽やかに事務所の方へとやってきた。
 勝手知ったると言うか何の気兼ねすらないのか、すでにソファに沈んでこちらへ呑気に笑いかける男を発見した和寅は、驚いた顔でまたたきした。益田は彼がこれから発するであろう言葉を想像しながら深く座りなおし、傍らに立つ和寅を見上げた。はたして和寅は一度ため息をついて、呆れた声を出しながら、ゆっくりと益田の横までやって来た。
「なんだい、益田君だったのか。お客さんだと思って慌てたじゃあないかね」
−あ、やっぱりそう言う。
 益田は可笑しくなったが、心の中で北叟笑むだけにしておいた。 くせ毛のやわらかな髪を片手でかきまぜながら、和寅が大げさにため息をついてやると、益田はつり気味の眉を下げ、情けない声を上げた。
「うわあ和寅さん、一生懸命働いてきたっていうのに、ひどい言い様じゃないですかあ」
「私だってしゃかりき働いてるよ。今だって台所の流しを磨いてたんだからな」
 襷の紐を畳みながら、和寅は大げさにため息をつく。こんな時の益田の反応は、大体予想が付いていたし自分の対応もお約束のようなものだと自分に言い訳しながら、それでも心の奥が擽られるような気分を無視出来ずにいた。
「流し?いつだって綺麗じゃないですか」
「そりゃあ、いつも私が手入れしてるんですからね。君や先生が食い散らかした食器だの、たッまーに気が向いただけお作り遊ばすお料理の、放置された鍋釜の後片付けだの、わたしゃそれが仕事ですから、一手に引き受けてますんでな。綺麗なのは当たり前だってんだよ全く」
 襷を袂に入れながら、ちろんと和寅は益田を睨む。
「ちょ、いつもすいませんって…!いやでも、和寅さんって意外に神経質なとこありますよね」
 慌てて両手を合わせ和寅を拝む益田は、謝っているのかフォローしているのか貶しているのか判らない事を言うおかげで、和寅の太い眉が寄ってしまった。
「なんですかい、その言い方は。ただ私ァね、どうしようもない君と違って、きっちりしてる方が好きなだけだ」
「また僕を引き合いに…あいかわらず酷いですよお和寅さん」
「うわ、はなせ!」
「あいた!」
 すげない和寅に、文字通り彼の腰に縋った益田はガツンと脳天に鉄槌を食らわされて首をすくめた。
「いきなりなにすんだい、この馬鹿!…まあいいや、お疲れさん。花びらくっつけてまで、歩いて働いてきた益田君に、茶の一杯でも振る舞ってやろうかねえ」
 未だくっついている益田を引き離そうとしたとき、和寅は益田の髪に数枚の桜の花びらがくっついてることに気付いた。
 真っ赤になっていた和寅だが、それでもすぐに表情が和らいで、しょうがないと苦笑の呈で益田に微笑みかけるのは、和寅の気分が先ほどの冷たい言葉とは全く裏腹な気分だからだ。
「え、ついてます?」
「ああ、ホラこれ見てごらんな」
 顔を上げれば、和寅が髪の間から取ってくれた数枚の花びらを見せてくれた。本音が結局出てしまったのには、和寅は気付いていないのだろうと思うと、益田は可笑しかったが口を出すと怒られるのでその件に関しては黙っておく。
 益田はようやく和寅から離れて座り直す。さりげなく一人分、横に座れるスペースを空けて。ソファの背にもたれ、腕をそこに預けた格好の益田は、もう片方の手で少し尖り気味の顎をさすりながら、思い出して笑う。
「ああそうだった、桜が満開のところを歩いてきたからですよ。ほら、春日さんちの」
「ああ〜はいはい、春日さんとこ…。あ、ありがとう。あそこもう満開かい?」
 益田が少し離れて座り直した意味は、和寅にも判った。けれどもそれを素直に言うのはなんだか気恥ずかしくて、話に集中しているように振る舞いながら、さりげなく礼を言ってとなりに座った。益田も上機嫌で、隣の和寅を笑顔で迎える。
「はいどうぞどうぞ。ええ、もうちらちら花びらも舞ってて、今が満開ですよ。やっぱり桜はいいですねえ。堪能してきました」
「そりゃ知らなかった、いいねえ桜ってェのはね」
「やっぱ春は桜ですよねー!…ああそっか和寅さんって、外出ないから知らないですよね」
 和寅の相づちに、嬉しそうに声を上げた益田は彼の言葉に引っかかって不思議な顔をしたものの、すこし考えてから納得したような声を上げてのぞき込んだ。そんな彼に、和寅は目を大きくさせて驚いてから、苦笑いを零しつつ着物の袖を振った。
「何云ってんですよ、ただ春日さんち辺りにはあんまり行きゃしないけどね、別に私も外ぐらい結構出てますよう」
「え、そうなんですか?」
「当たり前だろ。実際そりゃあ君に比べたらここにいる時間は多いがねえ、誰が毎日の食材だのなんだの買ってくると思ってんだ。そりゃ米味噌醤油、灯油に洗濯屋に呉服屋くらいはご用聞きに来てくれるから滅多に自分で買いには行かないけど、野菜や肉魚だのは毎日買いに行ってまさぁね。春日さんちの方は住宅街だから、買い出しとは逆方向だろうに。だから行かないんですよ」
「あ、そっか。そうですよね。滅多に外でないイメージがあるって言うか、でも実際いつもここにいますよね」
「ここにいるのは当たり前でさァ」
 何を言ってるんだと、和寅は大きく丸くした瞳を二三回瞬きさせた。量の多い睫毛がことさら大きく揺れ、そして口を尖らせた。
 益田はそれでも、彼が呆れているのだろうとわかる。表情のパターンの少ない彼のそれを、もうだいぶ把握してきたのだ。それに和寅がこの探偵社にいるという彼の自負のおおきさも、何となく益田には判っていた。だから益田ははごまかし笑いで肩をすくめた。
「そりゃそうですよねえ。和寅さんがここにいなきゃあ、おじさんと僕は餓死まっしぐらですもん」
「なに言ってんだい。先生は兎も角、君がなんで三食ここで食べてるのか、私ァ以前から不審に思ってるんだがな」
「うわあ、和寅さん酷いですよう。これからもよしなに」
 けけけ、と八重歯を見せて情けなく見せる、そんな益田を見てしまえば、和寅も肩の力が抜けて吹き出してしまう。はいはい、と軽く流す和寅の赤い朱唇の広角が綺麗な弧を描いて上がっていたので、益田はこころの中で安堵した。
「それにねえ。私だって花見したさ。絶景の花見場所、知ってるんだぜ」
 両手をソファについて大きく上体を倒し、下から見上げるような格好で悪戯っぽい口調で和寅は少し得意げに話すと、くくくと喉を鳴らした。それを見た益田はなんだか、気まぐれな猫を眺めているような気になって、そんな猫を構ってやりたい気分になった。
「花見場所、ですか?」
「ああ。そうだねえ…しょうがないなあ、特別に教えてやろう。感謝すると良い。ついといで」
 食指を唇に当てて少し考えるような仕草をし、ふむ…と納得した後に益田に向かい、得意げな笑みで傲岸そうに言うも、全くもって凄みもなにもない。
 それどころか、益田にはこの小生意気な和寅の言動に、頬が若気るだけのことである。
「和寅さんご自慢の桜、ぜひ拝見しましょう、じゃ…はい」
 益田は両手を上げて和寅に笑いかけた。
「なんだね?」
 小首を傾げて不思議そうに見やる和寅に、再度両手を突き出して軽薄そうな笑みを漏らす。
「けけけ…!起こして下さいよう」
「はァ?!なんで私が、君をわざわざ起こしてやらにゃらならんのですかな」
 腰に手を当てて和寅は鼻白む。
 やっぱり只でさえ大きい瞳を目を大きくさせて、量の多い濃い睫毛をバチバチと音がする程瞬きしている顔は、一見驚いているようにしか見えない。もともとの瞭然とした顔立ちが作るその大仰な表情に、一瞬益田は本気で嫌なのかと懸念し、怯みそうになった。
 けれど、色白の頬が赤くなっているのは益田には丸分かりである。だから益田は、安心して再度両手を突き出し情けない声を上げた。つり上がり気味の眉を下げて。
「うわあ酷いなあ。和寅さん、おじさんが甘えるとしてあげてるのにな」
 知ってますよ、と付け加えて、少しだけ恨みがましい目で見つめる。言われた言葉に、和寅はぼわんと赤くなって狼狽えた。
「はああ…!?しょ、しょうがないだろ!あの人は何云ったって起きやしないんだから!」
 別に狼狽えなくても良いのに、なんてこころの中では思っていたが、そこまで羞恥されるとなんだか面白くはない。けれどそこまで言うのも余計和寅を混乱させて気分を害してしまうだけなので、あまり追求はしないことにした。
「そりゃ判りますよ。あのおじさん、まるで子供だから。だからね、僕にもたまにやって下さいよう」
「…君も子供かい…」
「普段和寅さんてばよく、『私ァ三十年代生まれなんで、二十年代生まれの君とァね、若さが違いまさァ』なんて言ってますけどね、僕だってまだまだ若いもんなんですから」
 ここで言う年代は西暦である。とは言っても二つしか違わない上に、和寅は三十年の早生まれなのであまり意味のない文句ではある。それでも、益田に対抗するようにケラケラとからかい気味に益田を挑発する和寅が小憎らしくていつも覚えている文句だ。
「それは若いんじゃあないぞ、子供だってんだよ!」
「駄目ですかあ?…お願いしますよ」
「ば…ばっかじゃないかね君」
「馬鹿ですよう」
 長い前髪を垂らし、へらりと笑う益田の瞳が、いつもの軽薄に固めた笑いの中に少しだけ、和寅のこころを押してくるようなそんな錯覚がしたから。和寅は自分の中で言い訳をして、真っ赤になって怒ったような顔を逸らし、ぎゅっと彼の両腕を握る。
「しょ、しょうがないなあ…!…う、わ!」
 ぐいっと持ち上げてやると、立ち上がって止まるであろう益田の身体が被さってきて、和寅は大層驚いた。益田の肩元に、丁度上を向いた顎が入った。あまりにもすっぽりと入って和寅は目を丸くさせる。
「うわ、和寅さん…耳元で叫ばないで下さいよ。ありがとうございます、和寅さん」
 ぎゅう、と一度抱きしめる。そして、和寅が何かを言わない前にそっと身体を離し、八重歯を見せて微笑みかけた。そんな笑顔は、悪戯を成功させた悪餓鬼のようで、和寅は何も言えなくなってしまった。俯向き、訳もなく着物の襟を正してつかつかと探偵社の玄関扉までに行き、くるりと振り向く。
「ホラ行くよ!なにしてんだい」
 真っ赤な顔で怒ったようにまなじりを挙げていたものの、益田の笑みを深くさせるのには十分だった。
「あ、はあい。待って下さいよう和寅さん」

 慌てて廊下を走り階下へと繋がる階段の前に行くと、意外なことに和寅は屋上へと続く階段の方を上っていた。
「あ、あれ?和寅さん?そっち…」
「なんだい。こっちだ」
 益田の不思議そうにあげた声に、和寅は袴の裾をひらめかせて振り向いた。明るい日差しが、ステンドグラスの色とりどりの硝子をすり抜けて、綺羅綺羅きらめく。光を背に立った和寅の癖ッ毛が、きらきらと光って日溜まりに微睡むふわふわの猫の毛のようだ。
 榎木津という黙っていれば完璧な輝くビスクドールの横にいるだけに、地味な印象しかない和寅だが、彫りの深い顔立ちや撫で付けてもすぐに跳ねる柔らかな猫っ毛や、赤く少し厚めの唇、クラシカルな書生姿は、彼単体で見るとそれはそれで見栄えが良い。ただ、彼もまた動くと駄目な人種であって、若い男だというのに非常におばさんくさい言動が駄目にしている。
「こっちって、屋上じゃないですか」
「だから屋上に行くんですよう」
 くくく、と可笑しそうに笑って和寅は再び歩を進めた。後をついて行く益田は、屋上なんて特に用事もないので殆ど行ったことがなかった。
 音もなく、空へと繋がる扉が開いた。その軋みもなにも聞こえないところを見て、このビルヂングが肌理細かなメンテナンスを受けていることが判る。益田は、少しだけ冷ややかな、でも清々しい春の空気を受けて、ほう、と立ち止まって息を吐いた。
「益田君、ご覧な」
 よく晴れた高く広がる水色と、眼下に広がる甍やビルの建築群。袖を柔らかな春風にはためかせて歩いていった和寅は、未だ突っ立ったままであった益田を呼んだ。
 声が、楽しそうだ。
「はいはあい。どこです和寅さん」
「ほらあそこ」
「あ…ああ!」
 フェンスに両肘をついて、身体を預けた和寅が指さす先は近所の神社の遠景であった。遠景と言っても、そこまで遠くではなく、無機質な灰色の中と奥深い緑の合間、まるで桜色の綿飴をほんわりと浮かばせたような桜がすぐそこに見えた。
「それからねえ、ちょっと遠くになるけど、あっちにも…そう、それと上野の方まで見えるんですよう」
 嬉しそうな声を耳に、和寅の横に同じような格好で両肘をついた益田は、暫くその桜色に見入っていた。
「あの神社の辺は空襲でも焼け残ったッてんで、立派な桜があるんですよ。あっちのは戦後の次の年に植えたって、あの近所の八百屋さんが言ってたかな。だから小さいんだがね、ここからだとちょうど遮るもんがないから見えるんだ」
「へえ…」
 和寅の方を向けば、ふわふわと癖ッ毛が踊っていた。嬉しそうな笑みを零して、得意げに話す彼の表情はやはりパターンは少ないものの、まだ少し幼さというか少年らしさが残っていて、まだ年若いことが判る。
「いやあ、上から見るってのもおつですね」
「そうだろう。特別に教えてやったんだからな」
「はいはい。和寅さんありがとうございます」
 肩をすくめて笑って見せた。和寅はそれに満足したように広角を上げて微笑んでから、また桜へと視線を移した。
 しばらく、そのままでいた。時折ふわりと乗ってやってくる春風は、まだ少し肌寒いが身体全体を包む春の陽気は思いの外暖かい。
「ねえ和寅さん」
「なんですよう?」
 少し遠慮がちに声をかければ、和寅は視線を遠景からはずさないまま、それでも大層柔らかな口調で尋ね返した。だから益田もそのままの格好で訊いてみた。
「この桜のこと、僕たちだけの秘密ですか?」
「え?いいや、先生はご存じだぞ」
 きょとんと丸くした目で見つめられた益田は、うええと情けない声を上げて手すりにうち掛かった。
「榎木津さんも知ってるんですかあ」
「そりゃそうだよ。今年なんて先生が桜の時期を教えてくれたんだからな。…それにねえ益田君、先生に内緒で秘密を持とうってほうが間違ってんだってえのに、いいかげん気づかなけりゃあならんよ」
 また驚いたような顔になっているが、呆れているのが判っている。しかし、後半の言葉には、色々含むところがあるのか彼の顔がほんのりと赤く色づいていたし、眉根は寄っているものの、まなじりは困ったように下がっていることと、諭すような風を装いつつ苦々しく抑えた口調とで気不味そうに恥ずかしがっていることは判る。
「…でしょうねえ。いろんな意味で」
 和寅の榎木津に対する繋がりは、特別なものだ。自分に対する和寅の感情も、また特別なものだと自分なりに判っているし、それはこそばゆく益田のこころを幸福で満たす。けれどそれを合わせると混沌となり、モラルや自意識、それさえも根底から覆されてゆく。ただただわからないままで続いてゆく日常は、それでも案外心地よいことに益田は戸惑うわけでもなく、順応してゆく自分にこそ驚く。榎木津と別に対抗したいわけでもないし、対抗したにしてもその不毛さは判ってはいる。だが、なんとなく脱力した。それだけだ。
「…だからな、君が色々考えるこたァやめたがいいよ。それで、今は良いだろう」
 和寅の声が、意外な程優しかったので益田は丸くして彼を見つめた。遠くを見つめた彼の表情は、とても優しく微笑んでいた。そして一つため息をつくと太い眉を寄せて、赤く染ませた顔を一転渋い表情に変える。なんだかどこかふて腐れたような表情で小さく呟いた。
「…私だって、君と先生と…もう何がなにやらわからんのだからな」
 いいながら、こてんと右隣の益田の肩に頭を載せる。ふわりとした癖ッ毛の感触が、益田の首に擽ったかった。組んで手すりに掛けていた益田の左手を、和寅の右手がやや強く掴む。やけに暖かく感じた。
−只、ここにいま二人でいることだけ、それで良い。
−どうせ榎木津さんがここに来たら、和寅さんは困った笑顔して受け入れちゃうんだろうけど。でもその笑顔こそが和寅さんで、それに捕まっちゃったんだからしょうがないのか。
 益田はこころの中で笑い飛ばすと、天を仰いだ。空はどこまでも青く、なんだかどうでもよくなった。
 くしゅん、と和寅が小さくくしゃみをした。
 そう言えば、まだ上着なしで長時間外にいるには少し、肌寒い。益田はフェンスにもたれて小さくなっている和寅を覆うように、空いていた右の腕で抱きかかえた。
 いきなりのことに和寅の身体が少しこわばるのが判り、すこしだけ躊躇したがそのままにした。
「うわ、わ…?」
「寒そうだから。和寅さん。くっつくと暖かいですよ」
 意外な程、自分の声が真面目な口調になっていた。こんなちいさなことで不安なのだ、と自分で自嘲した。
「しょうがないやなあ。じゃあ、コート代わりにもうちょっとだけ、頑張って貰いましょうかねえ」
くくく、と肩をすくめて笑った和寅は楽しそうに答えてから、ほんのちょっとだけ益田の方へ身体を預けた。
「ね、和寅さん。ちょっとだけで良いんですか?」
「な…っい、いいんでさァ!だって君に、お疲れの茶の一杯入れてやらないとなんないだろ」
 少し狼狽したが、和寅はつんと上を向いて、恥ずかしそうに赤くなった顔を殊更逸らした。強がりを言うような仕草に益田は満足した。
「あ…そっか。でも和寅さん」
「なんだい?」
「お茶も嬉しいんですけど、もうちょっとだけ…こうしてたいんですよ」
「…仕方ない奴だなあ」

 和寅の心が暖かいのは春だからだけじゃない。
 二人の目の前を、風が遊んで運んできた桜の花びらが舞って大空へと吸い込まれていった。








                                                             end.

Afterword

さくらのきせつで益和いちゃいちゃ。

榎和前提の益和でいちゃいちゃ。ここはもう探偵と助手で秘書を取り合ってればいい。
益田は榎木津と和寅の関係の特別なのを判ってるけど、ひきませんよ。でも対抗したって無駄だって判ってる。
それから和寅が益田のこと、酷い言葉投げつけててもそれが愛情表現だって榎さんも判ってる。でも和寅は自分のそばにいることは当たり前以上の当然。と思ってる。
双方のことを和寅が意識してるのもしょうがないって思ってる。
だからカオスなんですよー。みたいな。









QLOOKアクセス解析