一期一会

2 海軍編−そのに

 昭和の一八年も暮れの声が聞こえ始め、基礎訓練も終わりに近づいた十二月十七日には、教育査閲があった。午前中いっぱいそれに悩まされ、ようやく開放された。
 早く食堂で飯を食ってしまおう、と実方と一緒に廊下を走っていたら、二人は丁度別室から出てきた司令官と教官にばったり出会ってしまった。慌てて停まり、ぺこりと敬礼した。
「ああ…実方と青木か。ちょっと来い」
 教官は、二人を認めると手招きして呼んだ。
「なんでしょうか」
 実方が尋ねた。青木は眼をしばたたかせ、司令官の目前であると言うことと、だしぬけに呼ばれた不思議さに少し緊張して、気ヲツケの体制で見上げた。
「お前たち、実家はどこか」
 司令官が尋ねた。
 だしぬけに何なのだ、と小首を傾げてしまったものの、その言葉は柔らかな口調であったので、何か叱責されるわけではなかったようだ。青木は、心の中で少しだけ安堵した。
「私は、郷も家も東京です」
「私の故郷は宮城ですが、今は東京へ父母・妹共に出てきております」
 二人が答えると、司令官は、ならちょうどいい、大きく頷いて教官を見た。教官は笑って答えてから彼らに向かい、かつんと足音を一度響かせた。
 青木たちもその音を聞き、殆ど条件反射のように背筋を伸ばし、命令を下されるのを拝命した。
「実方廉少尉候補生ならびに青木文蔵少尉候補生、本日二〇時半より本隊からの離隊を開始、武山教育隊へ赴き、携行資料一式を武山教育隊隊長へ搬送せよ。教育隊の隊長に書類を渡し終えた時点で、土曜において特別に休暇を許可する。よって、宿泊場所を実家に充てることもやぶさかではないが、決定次第、所属分隊長まで電話連絡を入れよ。分隊長不在の場合は、伝言依頼で構わない。ただし、日曜の一六時には帰還したのち、原隊復帰を分隊長まで直接両名揃って報告せよ。なお、復唱は不要」
「お使いにしては、割がいいだろう」
 司令官は笑って口髭をひねって見せた。
「は、はい!」
 嫌も応もないし、第一、休暇付きの小旅行と思えば願ったりかなったりである。そもそも、日曜の休暇と言っても航空隊周辺しか自由行動を許されておらず、日曜ごとの面会人を待つか、クラブに指定された民家の子供たちと遊ぶことくらいが楽しみであった青木たちにとって、大手を振って街を歩ける上に一日だけであるが家にも帰ることが出来るなんて、考えもしなかった僥倖である。
 暮れには帰省休暇が貰えるだろうか、などと言うことが現在目下、予備学生たちの話題の的なのだ。
「よし決まりだ。ああ、お前たち。他の奴らには家に帰るなんて言うなよ。向こうさんに泊るとか言っておけばいい。帰ってきてからのいいわけは、考えておいてやるから」
「今から切符の手配をするから、二〇時には荷物を準備して分隊長と一緒に玄関に居ろ。ああハンコも持ってこいよ」

 なにがなんだかわからなかったが、とにかく嬉しかった。午後の授業もそっちのけで、気付いたら旅支度をしている所に、話を聞いたらしい分隊長が呼びに来たところだった。
 青木たちが玄関で分隊長と共に待っていると、司令官と教官、それから主計係の中尉がやって来た。主計係が往復の電車賃と、雑費として幾らか纏まった金を呉れた。
「外食券はこれ。使う分だけハンコ押して使うこと。余ったら返却するように。この金は返さんでもいい。残り含めて、お前達の出張分の給料を事前に渡すという形にしてある。あとでこれに判子くれよ。切符は駅で往復分を手配している手筈だから、それで帰って来い。夜行の切符は引換の書類を駅で貰って、名古屋駅の改札にいったん出てからそこで換えるんだぞ。帰りの汽車に乗り遅れるなよ」
 てきぱきと中尉が、次から次へと事務処理をして行く。少し慌てながら、それらを受領して判子を書類に押すと、司令官がケースに入った書類を渡した。
「よし、これが持って行って貰う書類だ。青木、早くカバンにしまえ」
「は、はい!」
 青木はあわてて鞄にしまい込んだ。教官がその姿に苦笑しながら、又書類を渡してきた。つくづく軍隊とは書類ばかりがせわしないところである。
「それからこれが命令書だ、二人とも常備携帯するように。これ持っていないと、脱走兵と間違われても文句はいえんぞ」
 きっちりと折りたたんでこれも鞄にしまった。そして全ての準備が済み、改めて三人の上官へ挨拶をした。
「ああそうだ。お前たち、この行動については部外秘であるが、傾向書類の内容自体は秘であるので、注意するように。わかったな、じゃあ気をつけて行くように」
 そして青木達は、暗い夜道を歩いて出ていった。寒いな、とお互い顔を合わせて白い息を吐きながら。
 

 寝台特急の富士に車内泊した。
 三等寝台車のこの車両は比較的空いていたので、向い合せになっている三段式寝台の六つのうち、下段を青木たちが使っているだけで、貸し切りのようだった。車内自体もちらほらとしか乗客がいない。この車両には青木たちの他に組になっている旅行客や単独の者、いずれもまばらにいるだけだ。
 少し前に、決戦ダイヤと呼ばれる貨物優先・旅客削減のダイヤ改正をしたお陰で少し到着時間は遅くなるものの、それでも名古屋からは6時間少しで横浜に着くのだ。何となく、学生時代の修学旅行を思い出したが、人がいない空間が多い分ぜいたくな気がした。
「文蔵、俺たちすげえ幸運だったな!」
 実方が夜食に買った弁当を開けながら、浮き浮きと話しかけてきた。弁当を買った時も、駅の構内を行くときもそうだったのだが、海軍士官の恰好で雑踏を歩く若い二人は皆から好奇と羨望で少なからず注目されていて、何だか面映ゆくて仕方がなかったのを思い出した。
「うん!正直、休暇くれて家にも帰れるなんて思ってなかった」
 ガサガサと自分も包みを開けて、青木は上機嫌で頷く。
「ああ、だよな。―そうだ、明日どうする、とりあえず東京に着いたらお互い家に帰って、日曜の朝に八重洲口に集合みたいな?」
「そうだね…時間もあんまりないし、みんなの手前ふらふら学校にとか行けない雰囲気だからね。そうしよう」
「家って言っても、飯食って寝に帰るだけだけどな。―第三小隊の小宮山さんさ、家に結婚半年で留守番してる新妻いるんだって。写真見せてもらったけど、めちゃくちゃ綺麗。いいなあー。俺、待ってる嫁も無い」
 実方が天を向いて嘆くので、青木は可笑しくて肩を震わせた。
「そりゃ僕だっておんなじだよ。廉のとこだって、君の嫁じゃないけど綺麗な義姉さんいるじゃん」
「でも姉さんだもん。既にもうあの人は、実の姉って感じだしなんか…新妻的なものと違う」
 そう残念そうにぼやいて弁当を食し始めた実方は、青木の微笑みを引き出すのに充分だった。
 夜汽車は、しんしんと冷え行く冬の夜をただひたすらに走っていった。
 

 翌日、無事に武山の教育隊長に無事に書類を渡し終り、衛兵所で出門の手続きをしていたときだった。
 事務官の中尉が慌てて走ってやってきた。
「おおい、そこの学生。ここからどこまで行くんだ」
「東京まで行きます」
「お、東京か?よかった話が早い」
「え?」
「いやな一人、面会人の中学生がいるんだが、帰りの駅までの道も判らんから、一緒に連れて行ってやってくれ。その子も東京に帰るんだよ」
「あ…はい、わかりました」
 土曜に面会人とは不思議だな、とは思ったが特に何も反対することもない二人は顔を見合わせた後に頷いた。
「ん。…じゃあ頼んだぞ」
 ばたばたと出て行った直後に声だけが聞こえてきた。
「おおい榎木津、大丈夫だ、一緒に行ってくれるってよ。礼言っとけ。あと出門票にサインさせておいてくれ。俺ちょっと忙しいから行くわ」
「は、お忙しい中、申し訳ありません。中尉」
「中尉さん、色々して頂いちまって、ありがとうございました。本当にお世話様でございます」
 そんなやり取りが廊下の向こうから聞こえて来た。その後に、がちゃりと扉を開けて入って来たのは、制帽を小脇に抱えた若い兵科の予備学生で、一人の小柄な中学生の少年を後ろに従えていた。その少年が件の面会人らしい。
 二人は、特にその予備学生に驚いた。年は実方よりも五つか六つは年かさの、濃紺の制服に包まれた背格好もすらっとした颯爽たる美丈夫の青年だった。端正で彫りの深い顔立ち、栗色の髪に栗色の瞳、その色の薄さとあいまって、西洋人のよう、それも上等のビスクドールのように見えた。妹の持っている人形よりきれいな気がした。
 ともかく、見たことのない種類の人間で、青木は目を丸くしたし、隣の実方もそうだった。振り向いて扉の方を見やっていた二人は、目を瞬かせて無言で驚いた。
「ああ、君たち!申し訳ないね!うちの従僕が愚かなことに、駅までの道を知らんのですよ。全くもってご迷惑をかけるが、連れて行ってやって呉れ給え!」
 そしてその予備学生の、あまりにも快活で軍隊言葉とは懸け離れた話し方にも面喰った。青木たちの隊なら、二文節目で修正のため殴られているところである。
「は…はあ、そんな迷惑だなんて」
「そ、そうですよ。旅は道連れですから。全く構わないです」
 青木が半ば放心しながら返答すると、いち早く立ち直った実方がとりなすように笑って答えた。
「そりゃあありがたい!どうも申し訳ありませんが、御同行お願いいたしますわ。それと…迷惑重ねにもうひとつ。私ぁ一人で長距離の汽車乗るのも初めてでしてねえ。いつも人様について行くばっかで、切符だのの作法もよくわかりゃしない、よろしくご教授お願いしますよぅ」
 少年は、ほっと一安心したように人懐こく、青木たちにえくぼを作って笑いかけた。青年の陰に隠れていたから判らなかったが、この少年も眉の太く顔立ちのはっきりした綺麗な造作の子だった。少し垂れ目の瞳が大きく、色白の肌に紅い唇がやけに鮮やかに見えた。育ちのいい猫のような外見だったが、少年の使う言葉は東京下町の言葉が色濃く入っていて、そのバランスを絶妙に壊していた。
「いやあ、いい人たちだね!ん…君、君は小芥子に似てるねえ、さあ小芥子君!うちの愚かな下僕を頼んだよ!」
 ぽんぽんと頭を撫でられて仰天した。
「え…?」
「こけし…!!」
「うん、小芥子だ。ちょっと頭の大きいとこが似ているよ」
 思わずたじろいで両手で頭を抱えた。横で実方が爆笑している。言った本人はもう我関せずで、従えていた少年をからかっていた。
「和寅、お前は口数が人の倍なんだから、迷惑をかけないようにしないといけないぞ。それにしても、何度もここに来ているのに、一向に道が覚えられないのはいかんともしがたいね!」
「しょ、しょうがねえじゃないですかあ。私ゃここには車でしか来たことがないんですし、今日だってそうなんですよう。覚える余地がありませんぜ」
 和寅と呼ばれた少年は、予備学生の言葉に太い眉をふにゃあと寄せ、彼の制服のすそを両手で引っ張って抗議した。まだ幼さが残るその行動に、青木は微笑ましく感じた。
「うるさい反論は認めない」
「礼二郎様、そりゃひどいですよう」
「何がひどいだ。和寅、お前が多少なりとも聞かせるような釈明の準備が出来てると言うなら別だ。でもないだろう?なら黙っていろ!」
 この二人の関係はなんなのだと見ていたら、壮年の将校がちょうどこちらにやってきた。慌てて敬礼をすると、将校は鷹揚に返礼した後、色素の薄い予備学生へ声を掛けた。
「榎木津、どうしたその子、お前んとこの子じゃないか。面会日は今日じゃないぞ」
 えのきづ、と言う名前にどこか聞き覚えがあったが、青木は知り合いにそんな名前の人はいなかったと思いなおした。
「は、私事で申し訳ないのですが、父の用で言伝があるとのことなので特別に会わせて頂きました」
「おやまあ牧村様、お久しぶりでございます。どうもすみませんねえ、申し訳ないと思ったんですがね、火急の用がございまして取り計らっていただきましたんです」
 どうやら少年とも知り合いのようではあるのだが、それにしても物おじしない子である。人のいい笑みでとりなしている。
「なんだ、子爵がどうかされたのか」
 将校の顔が少しこわばって、急いた口調で尋ねた。榎木津、子爵、という言葉に青木はさっきから何度目かの驚きに見舞われた。実方が青木を肘で軽くつついて合図してきたので、顔を見合せて瞬きした。
 榎木津子爵は日本有数の資産家で、青木が知っていたのは新聞や何やらでその名を見かけた覚えがあったからだ。実方も同じであろう、驚いた顔を見せていた。そんな彼らの驚きをよそに、榎木津子爵の御曹司だと思われる予備学生は涼やかに笑って答える。
「いえ、大したことではなかったのですが、華族会館に提出する書類の事で私が判断せねばならなかったので」
「なんだそうか。てっきり俺は、怪我かご病気をされたのかと思ったよ」
 和寅少年の方を向いて、少しほっとした顔で笑いかけた。榎木津は柔らかな物腰で軽く礼をした。
「お気遣いありがとうございます。しかし、残念ながらあの父親は、煮ようが焼こうが一向にくたばらないような、しぶとい男なので心配は御無用です」
「れ、礼二郎様!なんてこと仰るんですよう!あの…差し出がましいことながら。御前様は心身ともにおすこやかにあらせられて、私どもも何よりでございますわ。先だっても、シャムからお帰りあそばされ、象の足と大きな蝶々の標本を…ああ口が過ぎておりますな。どうも私ァ口が多いのが玉に瑕で」
 にこやかに父親へ憎まれ口を叩く主人を慌て諫めた和寅は、牧村と言う将校へ遠慮がちに語りかけたものの、主人の諫言その通りに饒舌なたちであった。
「瑕だらけだよお前は」
 和寅少年の頭を小脇に抱え、榎木津はぐりぐりと脳天に拳を押しつけた。
「うわあ、ちょ、痛!酷いですよう礼二郎様!」
 言葉のことか行動のことかいまいちわからないが―おそらくどっちもだろう―和寅はまだ声変わり前の、甲高い声で悲鳴を上げた。
 だが、青木には本気に嫌がってるようにはとても見えなかった。
「瑕すぎて他ならとっくに暇出されてる所を、それでも僕が使ってやってるんだぞ」
「なんてえ言い草ですようこの方ァ。―ねえ」
 太い眉を八の字に下げ、和寅は榎木津に抱えられたまま泣きそうな顔をして、牧村と呼ぶ将校へとため息をついて見せた。
どうやらこの少年は、榎木津の家の使用人らしい。おそらく親が使用人で、この少年も生まれたころから仕えているのだろう。二人の掛け合いにも似たやり取りを聞いていて、子どもといえども、使用人が主人にここまでフランクに話すことが許されているのだから、少年の地位は推して計るべきだし、相当榎木津のお気に入りのようだと感じた。
「仲のいい主従でなによりだな。昼はもう食べたのか?」
 ようやく解放された和寅へ、牧村は微笑ましそうな笑顔を見せながら尋ねた。
「いいえェ。駅で弁当でも買っていこうかと」
「じゃあ、食堂で握り飯でも作って貰うように言おう」
「そんな勿体ない!」
 和寅は伸ばした両手を振り振り、大仰に首を振って辞退した。猫が驚いたときのようだった。
「構わんよ、どうせ弁当だってこの頃じゃ人造米だ。まだ麦飯の方がましだろう」
 小麦の人造米より、天然の麦飯である。その誘惑に和寅は、困ったように太い眉を寄せて苦笑いした。
「えと…私としてァ願ったりかなったりなんですがね、その」
 ちらりと申し訳なさそうな笑顔で青木たちを見やった。その視線に、牧村も青木たちに気付いて声を掛けた。
「ん?お前たちは…そう言えば見ない顔だな。…なんだ、航空科の学生?」
 彼らの航空徽章を見て不思議そうな顔をした。
「は、わが教育隊司令より、こちらの司令宛ての書類を持参いたしましたので」
 青木が答えると牧村は何度も頷いてみせた。理解したらしい。
「ああ、そういうことか」
「それでですねえ、この方たちがちょうどお帰りになるってんで、私と駅まで御同行してくださるってえ手筈なんですけど…」
 和寅が少し牧村を伺うように、下から救いあげるような感じで彼を見つめた。
「じゃあ一緒に持って行け。ちょっとくらい人数が増えたって何とかなるもんだ。それにな、よそ様の隊員をすきっ腹で追い出すなんて、ケチくさいことはせん。構わんよ」
 結局お言葉に甘えて、食堂で握り飯を数個作っていただくことになった。実方は、昨日の夜にして夜食だと言うのに食券を2枚も使ったので、証拠隠滅が出来ると嬉しがっていた。
 
 東京までの旅ずれに、道々話した。
「へえ、じゃあ安和君は榎木津子爵のお屋敷にいるんだ」
 お屋敷の若様に当たる榎木津は和寅と呼んでいたが、あれはあだ名だそうで、本名は安和寅吉だと名乗った。
 屋敷の使用人でありながら、中学にまで行かせて貰っていると言うことは、頭のいい子であると当時に、屋敷で可愛がられている秘蔵っ子であることに間違いはない。
「そうなんですよう。大正の震災からこちら、親父にお袋、兄さんともどもずっとお召し下さって貰ってるんで、私ゃ実家が畏れ多いことに榎木津のお屋敷なんですな。だから礼二郎様にも…ずいぶん可愛がっていただきましてねえ。いろんな意味で」
 最後の一言だけ、暗い笑顔で視線を反らして和寅は答えた。
「なんか…語尾の調子がかなりあやしいよ?」
 はあ、と和寅は年齢に合わないような溜息をついた。
「私なんてねえ、生まれたときから礼二郎様のおもちゃでねえ。そりゃ、私みたいな人間には勿体ないような果報の素晴らしいこともいろいろさせていただいてますけどね…。あの方、ともかく随分破天荒でございますから、やればお出来になるのに、やる気がないからやらんのですよあの先生は。ええ、さっきの牧村様にお見せになってたのは、やればできるときのお顔でございますからな。さっきだってねえ、私ゃ書類なんざぁ持って行っちゃいないです。持って行ったのは、短剣でございますよ」
 顔のすぐ横で手首にスナップを聞かせながら振る和寅は、猫のような顔でくくくと笑った。
「短剣…?」
「短剣ってこれかい?」
 眉を寄せて可笑しそうにしている和寅へ、二人は不思議そうに尋ねる。実方が指す腰の短剣を見て、和寅はそうそう、と頷いた。
 そして、ここだけの話でございますよう―と前置きしてから話を続けた。
「こないだの日曜にですな、あの方は特別におうちへお帰りになられたんです。その時にねえ、御前様がお使い遊ばしていらっしゃられた短剣―御前様も海軍でございましてね―をご覧になったわけです。で、礼二郎様はご出立の時にそれをお間違えになってしまったのでございますよ。私どももまあ、そんな間違いがあったなんて気付いてませんで、昨日ですよ気付いたのは。慌ててご連絡したら、礼二郎様まったくお気づきでなかった。それでも軍の方でいきなりの検査があって、お一人だけヤケに年季の入ったものをお持ちになっていたらお目玉食らうでしょう、だから慌てて私が礼二郎様の短剣を持ってはせ参じたわけです」
「だから和寅君が来たんだ」
 面会は基本的に、日曜日の指定された時間しか空けられていないから、面会人は平日に来ることはない。今までの説明で和寅が、その平日である土曜に教育隊へ赴いた経緯がわかり、ある程度納得はした。だが、その理由を持ってしても面会が実際に実現出来るのはやはり、子爵の御曹司だからなのだろうな、と青木は理解して、軽く何度か頭を振り相づちを打ちながら和寅に言った。
「そうなんですよう。重大なご用なんでございます、ッてェ私も吹かしやしてね。まあ私としては、学校も大手振って休めて、ちょっとした物見遊山も出来るってんで願ったりかなったりでしたがねえ。しかし、畏れ多くも天子様から頂いた短剣を間違えたなんてェ、先ほどの牧村様に言えやしない。とっさに先生ああやって誤魔化したんですな。私も内心ひやりとしましたけれど。本当、やればできるんでさあ。全く、天真爛漫であらせられると言うか、横紙破りのとこばかりでございまして」
 くつくつと可笑しそうに片を揺らせて笑いを零しながら、和寅はことの真相を語った。まるで一〇も年下の和寅の方が、保護者のような口ぶりで可笑しかった。
「ははは、安和君てば災難だねえ」
 実方が笑いながら話しかけたが、その言葉には全く労いもない。なぜならば、大儀そうにしながら、けれど嬉しそうな笑顔で話す和寅の心のうちは十分彼らに分かっていたからである。
「それでも私の先生ですからな、こればっかりはしょうがないってんで、まあ納得づくでお仕えさせていただいてるんですよう。だから、戦争が早く終ってお帰りになるのを、私ゃお待ち申し上げているんですわ」
 はにかみながら和寅は、ぱくりと握り飯を頬張った。
―この子は、主人が戦争から帰ってくると、信じているんだ。
 青木はこころの中でしみじみと反芻すれば、己の脳裏に母を思い出して、己との思考のすれ違いに胸がつきんと痛くなった。眼を細めて実方と話す和寅を見つめ、リフレインしてきた和寅の言葉にこくりと一人頷いた。
 ぴいい、と汽笛が鳴って長く響いた。

「それじゃあ文蔵。明日の朝七時にな」
「うん、また明日ここで。それじゃ、安和君も気をつけて」
「お世話になりました。青木さんもお気をつけてお帰りなさいまし」
 東京駅に降り立ち、懐かしい街の匂いを感じたのもつかの間、小石川へ帰る和寅と同じ方向の実方は、手を振り振り市電乗り場へと消えて行った。
 青木も省線電車に乗って家に帰るために乗り換えの改札へ進んでいたのだが、ふと思いついて歩みを止め、別の方向へ進んだ。
 航空隊では数冊の私物書籍の持ち込みが許可されていたので、帰りついでに神保町の古本屋で数冊見繕って行こうと思ったのである。別に熱心な読書家でもないのだが、厳しい訓練の下、数少ない娯楽の一つになっている読書のレパートリーを増やすのもやぶさかではない。


 いつ来ても、古い本独特の匂いが幽かに鼻を擽る。
 幾件かを冷やかして数冊買った後、とある本屋にふらりと入った青木は他に何かないものか、と整然とは云いがたく本が蝟集している書棚を見あげた。
 視線をふわふわと彷徨わせて、数々の背表紙を眺めて行った。そして、ふと気になったタイトルを見かけて、何気なくその本を引っ張り出してみたときだった。
「君、その本」
「…え?」
 青木は突然声を掛けられて、少し驚きながらもそちらへ向いた。
 いつの間にか隣に人が立っていた。若い、陸軍の将校だった。階級を見れば少尉だ。細身でひょろとした、まるで肺病やみのような雰囲気ではあったのだが、青木を見つめるその顔は、とんでもなく―不機嫌そうに眉間のしわが幾重にも重なった、仏頂面そのもので―怖かった。
 青木は驚きすぎて、声も出なかった。
 対する少尉は青木の驚きにも介さず、青木が黙っているのを彼の言葉を待っていると受け取ったのか、淡々と言葉を続けた。
「その本は陸軍の諸学校では閲覧禁止になっているよ。いわゆる禁書の類だ。だから、たとえ海軍さんでも一般の軍人が買っていくのはあまりいい顔されないだろうね」
「え、あ…そうなんですか」
 青木は意外にも親切に教えてくれた少尉が、別に怒ってもいないと言うことに気付いて、内心安堵した。そして、禁書だと言う本を改めて見た。特段、どうと言うようなものでもない本なのだが確かに、陸さんが言うからにはそうなんだろう、と青木は思った。持っていた本を眺めてから、さてどうしようかと無為に少し振ってみた。
「読みたいなら買って来てやるよ。待っていたまえ」
「え、いいんですか?だって貴方、軍人が買うのはちょっと…って」
「なに、僕は軍務でこちらに買い付けに来ているんだ。その本に紛れさせてしまえばいいよ、構わない」
 どうしても読みたい本なのかと言えば、正直首をひねるようなものだったが、青木が買うよりも相手の方が大分リスクも低いから、とわざわざ声を掛けてくれた相手の好意を断るのもなんだな、と青木は思い直して親切を受けることにした。
「あ…ありがとうございます。…っと、お金」
「あれもまとめて買うから、少しは安くなる。後でいいよ」
 あれ、と指しながら少尉が向かった先の番台には、既に何冊も本が積まれてあった。
 陸の軍人なのに、君、などと言う軟弱な地方人のような言葉を使うので、もしかしたら学徒出陣組かもしれない。青木自身はどこからどう見てもその見習士官然としている―とよく皆に云われるが、童顔であることと軍人らしい挙動に未だ慣れていないからだと頭を垂れるしかないとわかってはいる―雰囲気から、学生に声を掛けるそのままの口調が出たのだろう、と帳場に立つ男の後ろ姿を見つめながら、ぼんやりそんなことを考えた。
「ああ…君、ちょっと」
 声を掛けられて青木は思考を止めて少尉の傍に寄った。
「すまないが、これを持って行ってくれないか」
「あ、はい」
 青木は主人が紐で括ってくれた塊を持つ。皮鞄を持っていたため、自由な腕は一本したなかったが、そこまで重いものではなかったのでひょいと抱えた。少尉はもう一つを持って、その一番上に青木の欲しかった本を乗せ、こちらを見た。
「近くに車がある、そこまで持って行ってくれないか」
「わかりました」
 青木もその男が出ていく後を追って、店主に会釈をしつつ外へ出た。すぐ傍らに軍用車が止めてあり、そのトランクへと本を収めた。
「ありがとう。なにしろ僕は一四のころから力仕事をしないと決めているのでね」
 少尉は笑いながらトランクを閉める。青木もつられて笑った。そんな青木を薄い片頬を上げて眺めた後に、はい、と例の本を青木に差し出した。
「あ、あの…ありがとうございました」
 青木が本を受け取り、ぺこりとお辞儀して礼を言った。
「どうぞ、持って行き給え」
「すみません。それで、お代はいくらだったんでしょうか」
「いいよ」 
 こともなげに言われて、青木は目を丸くして手を振った。
「そ、そんな悪いですよ!きちんと払わせて下さい!」
「いやね、経費でまとめて落としてしまったし、その金もどうせ私物みたいなものだ。君もちょっとした幸運が廻ってきて、そのご相伴に預かったと思えばいいさ」
「で、でも…」
「―君、本屋から運んで呉れただろう、運び賃で相殺さ」
「相殺―にならないですよ、一〇メートルもないじゃないですか」
 なおも食い下がる青木を可笑しそうに微笑みながら、少尉は己の顎を撫でた。これ以上言ってもおそらく平行線だろう。青木は眉を八の字に下げて弱った笑顔でおずおずと折れた。
「じゃ…じゃあ、お言葉に甘えちゃっても…」
「いいさ。どうせ僕の金じゃない」
「えええー!?」
 慌てる青木は、微笑む少尉をより一層愉快にさせるだけだった。その時、何軒か向こうの辻から出てきた若い軍人が声を発した。
「おおい、中禅寺!」
「なんです?」
 少し大きめの声で少尉が答えた。青木もそれにつられて振り向いた。若い軍人が二人、小脇に本を抱えて走って来た。
「あった。見つけた」
「…まが、あっちで見つけたって」
 声を発した一人目の文末と、二人目の文頭が重なったために正確には分からなかったが、誰かが目当ての本を見つけたらしい。
「ったくさあ、敷島博士も『うっかり』で、要る本まで捨てちゃうなよなあ」
「あ…じゃあ、僕はこれで。本、ありがとうございました」
 胸に片手で本を抱いた青木は、ぺこりと中禅寺と呼ばれた少尉に頭を下げた。
「ああ。それじゃ君、三重か土浦か分からないが、気をつけて帰りたまえ」
「え…あ、はい!」
 一瞬驚いたが、自分が予備学生の制服を着用しているので少尉が見当をつけて行ったのだと気付き、はにかんで青木はもう一つ軽くお辞儀をする。後からやってきた軍人たちにも軽い会釈をして別れた。
「ん…?ああ、どうも」
「中禅寺、あれ誰?後輩か?」
「いや、たまたま本屋で少し話をしたんですよ」
「ふうん」
 そんなやりとりを背後で聞きながら、青木は神保町を後にした。


 秋の始まる前に別れを告げた懐かしい我が家で、久しぶりの畳の上に引いた布団にひっくり返った。文机の近くに置いてある卒業証書と一葉の写真を手に取った。
 それは、卒業式前に慌ただしく出て行った青木の家と実方の家へ、式後に友人たちが持ってきてくれたものである。既にもう、その何人かも故郷へ帰って息も継がずに各地の軍学校や兵営の門を潜っている。実方も、無事に陸攻合格となって、青木たち海鷲と並ぶ陸鷲のたまごとなった、と三重に行って直ぐあたりの手紙で知らせてくれていた。
 九月に三重行きの列車に乗るため、学校から駅のプラットフォームまで送ってくれた友人たちの顔は、おそらくもう、二度と見ることはできないとしみじみ思う。
 青木はその時に写した写真を飽きることなく見詰めていれば、冬のしんしんとした寒さが身に染みた。

 うう、とふるりと震えたときに瞑った睫の間から、ぽろりと零れた涙が、厭に暖かく感じた。



 年末には結局、帰省休暇は貰えなかった。
 海軍省へ暮れの前に出張で赴いた大佐が交渉して貰って来てくれる、と根拠のない淡い期待を学生たちは願っていたが、現実はそう甘くなかった。元旦は
 新年明けて三日目には講義が再開した。そして、練習機教程への移行に伴う各航空隊への配属と共に専攻が発表された。

 練習機教程では操縦となった。
 少し前に希望を聞かれて振り分けられたものだ。直接飛行機を駆動させる操縦、操縦以外の索敵や写真撮影から計器管理までを行う偵察、飛行機には搭乗せずに間接業務や戦闘記録や人事記録等の管理業務を担当する飛行要務―飛行専修に志願したものの飛行不適格とされた者ののなかで、どうしても飛行隊で勤務したいという強い希望から誕生した任務だが、重要な任務であることには変わりない―の三種があった。
 青木は、やはり飛行機乗りとして己で空を駆ってみたいと、操縦を希望として出したものの、全体の五割以上が増員の要にある偵察へ回されると聞き、同じく操縦を希望している実方はともかく、教科や教練の成績がとりわけ芳しいわけでない自分は、そちらにかもしれないと半分諦めていたために喜びはひとしおだった。同じく操縦専攻となった実方や、ほかの同期と手をとって喜んだ。
 そして配属も決まった。
 青木は、実方とともに練習機教程の操縦訓練隊と割り当てられている全国の航空隊のうちのひとつ、台湾の南方に位置する高雄航空隊の教育隊所属に決まったのだった。

 松が明けてすぐ、八日に台湾や朝鮮各地の航空隊へ送られる外地組は合流してきた土浦隊と共に日本各地へ赴く内地組よりも早く出発した。彼らと共に門司経由で海峡を渡り、一五日にはもう高雄に着いていた。なので結局、奇跡的に貰ったあの里帰りが家族との今生の別れということになった。
 初めて日本の国外から出たどころか、三重すら己の行動範囲の中で最南端であった青木にとって、南国台湾の中でも熱帯地方にあたる、最も南に位置する高雄はただただ珍しく、まさに外地の異国情緒にあふれた地であった。異国情緒と言っても植民地統制下にあるために日本語ですべてのことが足りてしまうこの土地を、異国の外地と言っても暮らしやすいところだな、としか青木には映らなかったし、南洋の戦地に限りなく近いのにも関わらず、内地の切迫した雰囲気とは違ってまだのんびりしている印象でもあったが、青木にはそれが不思議だなあ、これが外地というもので、民族性の違いなのかな、程度にしか思わなかった。
思えなかったと言ってもいい。
 通常は練熟を重ねて育成される飛行士訓練を、基本座学・練習機・実用機通年合わせても一年半と言う超短期育成コースをとらざるを得ない状況の中で、青木たちはひたすら厳しい訓練と座学に没頭したからだ。それでも食べ物、特に果物が豊富にあったことは、内地での食糧統制に苦しんだ若者としては非常に有り難かった。食べざかりの他の隊士たちと共に食べすぎで腹を痛くしたりしたことなどは、厳しい訓練の中で数少ない楽しい思い出だったし、初めて空を飛んだ時に胸にこみ上げた大きな感情は戦時中の必要性からとは云え、忘れようにも忘れられない。

 が、大きな奔流に押し流されてゆく、切迫した日々を三カ月過ごしたと思えば、今度はすぐに実用機教程であった。
 そこで青木は艦戦―単座戦闘機―と割り当てられた。次に配属された台南航空隊は、日本の空のエースである坂井三郎の配属した名高い基地で、そこの使用機は零式艦上戦闘機、つまり零戦であった。
 初めて零戦の機体に触れたとき、俊敏性を重視したために軽量化を図った末の、その脆弱とすら感じる胴体の装甲の薄さに、青木はこれに入って一人、どこまでも広くて大きい海の上と、どこまでも広くて大きい空の下、その曖昧な境界線の間を飛ぶのかと思うと、青木はにわかに納得が出来なくて、なんだか切ないような気分がした。零戦によりかかって、軽くその機体を拳で叩いた。こん、と軽いアルミの音がした。

 そんな青木を見て、ここでもまた同じ配属先だった実方は、科学って怖いな、と笑った。
「そんな怖い科学を操って、空まで飛んで戦争しているんだぜ、俺ら。全く訳がわからないよなあ、訳が分からなくても戦うんだけどな」
 ぼやきとも独り言とも取れるような実方の言葉を聞いて、青木は大きく深呼吸をして息を吐く。
「そうだね。戦わなけりゃ、負けるからな」
 すめらみいくさに負けることなんか、考えられない。
 その日はよく晴れた日の事で、南洋ビアク島救援のための「渾作戦」が中止された日であり、日本海軍が航空力の大半を失う「あ号作戦」すなわちマリアナ沖海戦の前哨戦が敗北した日であった。

 青木たちはそんなことはなにも知らなかったし、知っていたからとて何が出来たわけでもない。ただただ、確実に近くにある、自分たちの死に何かを見出すことを模索していただけだった。





                                                            …next→

Afterword

(さいごの「年末には、結局〜」からつけたしました)

海軍編でのすれ違い3人!
榎木津大先生と、和寅、それから中禅寺少尉です。
ええと、榎木津先生は元から視力が弱いそうなので海軍の予備学生でも視力が大切な飛行科を除外、整備科も理工系学科卒ではないため除外。残る、一般兵科のうち通信関係かなーなんて適当な妄想です。そうすると、竹山の教育隊で教育やってたので、そっちにいるかな。的な。
軍隊時代の榎木津がわからないので、とりあえず、やれば出来る子モードの榎さんにしてみました。でも和寅に対してはいつもの感じ。とは言っても、姑獲鳥魍魎くらいのレベルに抑えておきたい。
和寅はむりくり出した!
中学2年生です!14さい!!ギリギリ不自然じゃない人間をばんばん出そうと思ったのと、私の趣味。と言うか、3馬鹿の鳥ちゃん益田がよく判らないので出せないんだよね…。
中禅寺はもっとむりくり出した!
この時期に少尉待遇だったとは思えないんですが、そこはそれ、一二研効果w
下っ端だと思うので、匣館で鋼鉄の兵隊=鉄人を兵器開発をしていた金田博士の助手である敷島博士が「うっかり」で捨ててしまった専門書を探しにかり出され、近辺のラボの下っ端(と言えども将校クラス…って、なんて某A庁…)若者学生たちと一緒に、神田の古本屋街にいたって事で。
あ、本を見つけたのは丸分かりでしょうが、郷嶋です。
(ここらへんはくどいくらい言いまくってる、今川版の鉄人28号をご存じの方だとニヤニヤ出来ると思うんですが、ご存じなくても全く内容に影響はないと思います。
ただ、鉄人計画の「不死身の兵士」のうち、鉄人第一計画『金田博士(正太郎君の父親)が担当する、純粋機械のロボット兵器としての兵士』と共にあった、もう一つの鉄人計画である鉄人第二計画『不乱拳博士の、死した兵士の肉体を甦生させてつくる不死身の兵士』っつーのが美馬坂どんぴしゃりっていうか、不乱拳の弟子たちの中に入ってたんじゃね?っつー妄想から生まれたそういうアレです。
もし眉間の方でご興味ある方、平成版オススメです!色んな意味で!!敷島博士は…紳士だけど、うっかりな上にアレですw)

寝台列車の辺りを書くため、鉄道歴史系のサイトなどを廻っていたら…あやうくそっちに引きずり込まれそうになりましたwwおもしろい…www
新しい世界の扉を開きそうになった…w
だがしかし、当時の列車内のイメージはよくわからんので、個人的に今の中国の夜行列車(臨時列車で人少ない奴限定)のイメージ。
三等寝台って言っても、当時の日本はまだまだ安い座席(指定席・自由席)もあるので、青木たちは一般的の上程度(若い士官ならそれくらいだろう)のレベルの切符なのな。

あと、青木の読みたかった本はふっつーの小説。志賀直哉とかそう言う、昔で言ういわゆる軟派小説(エロって意味じゃなくて!)なんだが、そう言うのって多分、軍の制服で買うのはあんまり感心しないみたいな感じかなーって。
中禅寺さんたちは定期的に、お堅い研究書からエログロナンセンス本まで、研究のため軍機密の名の下にがッさり買っていくので、本屋さんたちは彼らに対しては気にしてないとかそう言う感じ。

そして…やっと次の章で、はじめの時間軸に今度こそ戻れる…!!










QLOOKアクセス解析