一期一会

2 海軍編−そのよん 君よ知るや南の国


 一機の敵機とも鉢合わせせずにフライトを終えたのは、僥倖であった。
無事にラオアグの飛行場へと降りる着陸体制を取った頃、青木は漸く緊張の奥底からほんの少しだけ、安心の吐息を小さくついた。台湾最南端部の鵝鑾鼻岬からフィリピンのルソン島へ続く最北端バタン諸島を経てルソン島北端アバリの間に横たわる一五〇キロ余りの小さな海峡は、米潜水艦が跋扈し、幾多の艦船が沈没する"魔のバシー海峡"として戦争開始後から相当物騒な場所ではあったのだが、今年の七月に入り、俄然危険となり船の墓場と恐れられている。その船の墓場の上空もまた、安全とはほど遠いのも当然であったのだ。だからこの機内も誰一人無駄口を叩くものもなく――軍人も技術者も官吏も、誰も元から叩きそうにないものばかりではあったのだが――ごうんごうん、と響くエンジンの音と気流の揺れが支配する狭い空間で、いつ来るか知れない敵機に発見されないように、と息を潜めていたのだ。青木は機体が傾いた事を感じ、そこでやっと、きらきらと銀色の水面が光り輝く蒼い海の美しさに気付いた。離陸以来、一度たりとも銃爪から指を離していない緊張の中ではあるが、単純に海はこんなに綺麗なのか、と一瞬だけ驚いた後に哀しくなってしまった。眉間に皺が寄る感覚で我に返り、慌てて青木は海と同じだけ綺麗な空を睨んだ。
すう、と殆ど衝撃のない着陸だった。さすが輸送機乗りの技術である。タイヤが滑走路を滑る振動に、漸く人心地が付き、青木は目を閉じてしばしその細かな振動に身を委ねた。輸送機は地上部隊の兵に誘導され、飛行場の片隅へと停まった。
 ――一発も撃つことなく、何事もなく渡れて良かった。
 青木は心の中で安堵しつつ立ち上がる。座席に手を掛けて身体を反転させると、ちょうど座席を離れたばかりの室生と目が合った。青木は頬を緩めて、はにかんでみせることで挨拶代わりとし、青木へ微笑み返して目配せする室生と共にタラップを降りた。
 機内から出たそこは南国の昼の太陽がきらめいていて、台湾と二〇〇キロも離れていないのに、もう少し暑いような気がした。降りて行く他の人員にも一安心とばかりに、幾分か頬が緩んでいた。大地に降り立って見渡せば、航空機を離発着させる同じ飛行場であるには変わらないのだが、敷地内に停められた様々の飛行機がいずれも馴染みの薄い陸軍機であることや、迎えが陸の軍人たちであることに、やはりここは余所なのだと肩を竦めた。
 揃って皆が建物に案内される時に、何気なく振り向いてみると、輸送機へ警備の兵が配置されるのを見た。

 飛行服を脱いで二種軍装へと着替えた。昼食を運んできた当番兵たちは無関心を装ってはいたのだが、やはり気になるらしく、出て行く時に不思議そうな顔で海軍の面々を眺めていた。手早くそれを頂いて暫く経った頃、海軍の参謀と郷嶋は案内の兵に連れられて出ていった。
 海軍の参謀は室生に、帰りの算段を勘考してくるから確定次第追って知らせる、それまで適当にしていろと伝えた。それと入れ違いくらいにもう一人案内の兵が来た。研究者たちに資材をトラックに積み込む作業を始めるので、監督に来る旨を告げてきた。
「俺は彼らと一緒に行って輸送機の方の点検を見てこようと思うが、中尉たちはどうする。ここでぼうっとしているのも暇だろうし、積み込みでも見物したらどうだ」
 輸送機のパイロットは伸びをしながら立ち上がり、なにも任務もなくなってどうしたらいいのか微妙な二人へと提案してくれた。青木と室生は顔を見合わせる。
「どうぞ、退屈しのぎにはなるでしょう」
 思案顔の二人へ研究者のひとりも笑顔で促すので、確かにこの部屋で参謀が帰るまでひたすら待機しているのもなんであるし、誰か関係者の傍にいた方が良いだろうなァさあ来い、との陸軍の参謀のお言葉に甘え、二人は皆について行くことにした。

 滑走路には三台のトラックが輸送機の傍らへと横付けされていた。輸送部隊と思われる人々は既に来ていて、彼らを待っていた。彼らはトラックの傍らで三々五々座り込んで暑い南国の陽射しを避けていたが、やってきた青木たちの姿を見つけて皆立ち上がり、整列した。将校たちは兎も角、兵隊たちは一歩下がったところで三人所在なさげに立っている白い軍服の海軍陣を見て目を丸くしていた。待っていた側の参謀記章を着けた将校と普通の将校が敬礼してきたので、揃って敬礼を返して連絡の申し合わせを始めた。
「――ラボックから来られた隊か。自分は陸軍省の佐野であります」
「はッ。第一四方面軍付き情報参謀の遠山であります。自分はラボックからの案内でありまして、こちらは第一師団司令部後方参謀、大川少佐。第一連隊のうち第二大隊の一部を輸送人員として率いてきて頂きました」
「大川です。昨日の夕方にラボックにて上陸しまして、自分らは本隊より分割された陸送部隊のうちの二分隊を預かっております。――これは第七中隊第二小隊長、ここの二分隊を輸送部隊として送ります」
「せ――関口少尉であります」
 一番若手と見える二〇代の、どう見ても学徒上がりのような少尉が参謀に押されて前に出され、躊躇いがちに緊張の面持ちで頭を下げた。大川と呼ばれた参謀が、少し怪訝な表情で青木たちを振り向いて首を傾げた。
「ああ――こちらは輸送作戦に協力頂いた海軍の方々で、輸送機を操縦して貰った。津田中尉は東京から、室生中尉と青木少尉は高雄の航空隊から協力して頂いている」
 大川参謀の疑問を察した佐野参謀は、彼の疑惑を早期に取り去るように、快活に笑って紹介した。前の二人に倣って青木もぺこりと会釈をしてみせた。大川以下の陸軍陣もある程度は納得したのか、各々小さく頷いていた。なんだか彼らの視線にきまりが悪く、青木は顎を引いて首を傾げた。
「そう言うことでしたか。失礼した」
 いえ、と津田というパイロットは大川の苦笑いを短く受けて畏まって見せた。
「いや皆遠路を来て頂き、有り難い。それでは早速積み荷をトラックへ積み込んで、明日からの輸送に備えて頂きたい。資材の取り扱いはこちらの敷島君、横山君、今川君に質問してくれ。彼らは陸軍行政本部の研究所の学徒で、今回の輸送に同行して行く研究者だ」
 佐野参謀が研究者たちを紹介し、彼らの監督によって輸送機から資材を取り出し、兵隊たちがトラックへ積み込む作業が始まった。津田は陸軍の整備兵にメンテナンス点検の説明をしながら作業を始める。海軍機と陸軍機は、果たしてこれは二つの機体が同じ国内――どころか同じメーカーのものであるのだが――で作られた飛行機なのか、と首を傾げざるを得ないくらいに、部品をはじめとした規格に顕著な違いが見られるからだ。だから、簡単な点検しかできないので、直ぐにこちらは終わってしまった。津田は機械工学にも明るいらしく、そのまま整備隊の将校と話し込んでいる。室生は先ほど関口少尉という歩一の小隊長と共に参謀たちの元へ行ってしまった。一人残されて置いてきぼりの青木は手持ち無沙汰で、資材を運び出している兵隊の方を手伝おうと、敷島へ近付いた。
「ああ…少尉。どうしたんです」
「ええ、私たちの方は終わってしまったので、お手伝いしようかと。何かありませんか」
「それはご親切にありがとう。こちらから運び出すのはだいたい終わって、後は一度外で私たちが簡単にばらし、兵隊さんたちにトラックへ分乗させて貰うだけです」
「だけ…――なんて感じじゃないんですけれど」
「分解なんて簡単ですから」
 首を傾げて遠慮がちに突っ込む青木だったのだが、それに微笑んで持っていたスパナを翳してみせる敷島に気の抜けた相づちを打つしかなかった。振り返ると、最後のパーツを機内から出す所だったので手伝って外に出た。
外では、二〇人弱の兵隊が研究者たちがばらして行く資材をトラックに乗せ、固定する作業に当たっていた。既にトラックに乗せられているのは、バギュームの入った資材だ。運んできた重いパーツを置いた青木の耳に、分隊長殿、最初に運んだ荷物は固定を終えました、との声が聞こえたのでそちらを見やった。
 大木のように体格の良い、厳つい下士官が振り向いた。歳は二十代の後半くらい、えらの張った、四角い風貌の男だった。いかにも職業軍人、それもたたき上げの下士官と言った風体だった。正直、地方時代の青木の周辺にはあまり見かけないたぐいの人間である。
「おう、じゃあよ。あっちの手伝ってやれ。お前らは今、学者先生がはずし終わった奴を梱包してこい」
 てきぱきと命令する男の声は意外にも甲高く、青木は少し面食らった。拝命された兵隊は馴れているらしく、特になにも反応せずにさっさと次の作業へ移っていった。 

 青木が兵隊に混じって作業を手伝っていると、室生が関口少尉と共に戻ってきた。青木の方へ向かってくるかと思いきや、先ほどの下士官へ声を掛けて三人で何事かを話していた。下士官が敬礼し、将校二人と別れた。室生が青木を見つけ、遠くから声を掛ける。
「おおい青木、まだちょっとかかる。あとよろしくな」
 なにがよろしくなのか、と首を傾げた青木だったが、室生は関口と共に足早に来た道を戻って立ち去っていったので、謎は残ったままだった。眼を瞬かせていれば、先ほどの軍曹がやってきて敬礼した。
「青木少尉殿でありますか」
「あ…はい。そうですけど」
 怖い教師に声を掛けられたような気分になって、青木は知らず、学生時代のような言葉遣いになってしまいながら返礼する。青木の答えに、一瞬だけ面食らった顔をした下士官だったが、戦闘帽の下から、青木をじろりと睨め付け、そして敬礼のために上げたその逞しく太い腕を下ろした。青木が彼を見上げれば、防暑衣の襟にみえる階級章は軍曹となっていた。
「――なにか」
 青木は繕うように胸を張り、彼へ尋ねた。
「は。自分は歩兵第一連隊、第二大隊の木場軍曹であります。そちらの室生中尉殿と、わが隊の小隊長殿が自分の元に参られまして。運び込みが終了次第、兵らに休息を与えて休めとのことなのですが、その際になにか適当なものを近くの市場でなにがしか買い、与えておけとのことで、これを頂きました」
 木場というらしい軍曹はそう言って、手に握っていた幾枚かの紙幣を青木に見せた。フィリピンペソである。
「それで、室生中尉殿がなにか適当なものを少尉殿に見繕って頂き、調達にご同行願うように、とのことであります。お願いいたします」
「見繕う?」
 僕が?とばかりに青木は己を指さした。先ほどの室生の、頼むとはこのことだったのかと理解したのだが、予想外の話である。青木の仕草が可笑しかったのか、木場軍曹は少し頬を緩めて頷いた。微笑んだのに、青木にはまだ厳つく感じた。
「そうです。自分らは今まで北満に駐屯しておりまして、南方は初めて来たのであります。ですから、なにを喰ったら良かろうかという以前に、喰えるもんがわからんのであります」
 確か第一師団は、帝都不祥事件――二二六事件――の影響で現在の駐屯地は満洲国の中でも北の端、冬は零下四〇度も下回るソ満国境に近い黒河省孫呉である。兄の文介が住んでいる首都の新京よりも一〇度は寒い。そんな寒い地域にいたものが、突如南国でなにか探せ、と言われても来たばかりでだし困惑するだけだ。青木もフィリピンへ降り立つのは初めてだったが、台湾も南の国だし似たようなものだろうと、申し出を受けることにした。
「わかった。――じゃあ兎に角行こう」
 することもないより、用事のある方が良い。青木が頷いて了承した。木場はその容貌魁偉な顔を畏まらせて、ではお供いたします、と再び敬礼して見せた。それを受けた青木だったが、この木場のようなごつくていかにも大人の軍人である彼に上官としての礼を尽くされると言うことに――自分の階級はわかっているし、航空隊でも待遇されてきたことではあるが――なんだか面映ゆいような気分がして、歩き出しながら制帽を被り直した。

 先に立って先導する木場の後を追いながら、青木は少し遠慮がちに声を掛けた。
「あの…木場軍曹」
「なんでありますか」
振り返った木場は、少しだけ歩調を緩めた。青木はそれに気付き、怖い教師に対するような躊躇いは少し薄められた。青木は少し足を早めて木場と並んで歩きながら、彼の四角く出張った顎を見つめつつ尋ねる。
「市場って――」
何処にあるのか、と尋ねる。少し首を傾げたので、木場の四角い顔を下から覗き込むような恰好になってしまった。
「自分らがこの基地へ入った時、門の右手に市場があるのを確認しております。比較的大きそうな市場でしたので、上官殿はそこのことを仰せられたかと思われます。それから――」
木場が説明を一度区切ったので、青木は瞳を瞬かせた。
「それから?」
「自分は日本語以外、わかりませんのでありますから」
 木場は、青木に向かって片頬を上げて笑いながら付け加えた。青木も、自分だってスペイン語なんか齧ったこともない。全く出来ないと思ったが、学生時代にもそんなに良い成績でなかった英語で事足りるだろうか、と思い直して苦笑混じりに頷いた。
「私もスペイン語なんて出来ないし、英語も自信はないけれど――買い物ぐらいは出来ると思うよ」
「それで十分じゃないですかい」
 ふ、と青木の答えで笑った木場は、少し伝法な言葉で可笑しそうに肩を揺らした。彼の元々の口調が出たのであろう。第一連隊は、東京下町の商家の子弟や近郷の農家の息子が集まる向こう気の強い集団である。青木は学生時代、街で聞こえてきたような言葉に少し懐かしさを覚え、彼に対し好意を持って軽く頷いて見せた。

 飛行場を通り抜け、隊舎の渡り廊下を横切ろうとした二人は、建物から一人の男が出てきたのを見かけた。背広姿でがりがりと蓬髪を掻き混ぜながら、厳しい顔で手に持った書類を読みながら近付いて来る。郷嶋だった。
 青木はちょうどそのまま歩いていけば、対角線上でぶつかってしまうと考え、停まった。木場も停まる。対して郷嶋は二人を顧みることすらせずに、いないもののようにしてやって来て、彼らの目の前で停まった。読んでいた書類を下げ、じとりと舶来ものの眼鏡の向こうから鋭い蠍のような目で睨め付けてきた。
「――危ないじゃないかよ」
 郷嶋の傲岸な態度に、青木は眉を潜ませた。
「あんたこそ、危ないじゃないですか。歩いている時くらい書類を読むの、やめたらどうなんです」
「俺は忙しいんだよ。手配すること山積でな。敷島たちを見送ったら、すぐに別の業務が入ってるんだ。昭南経由で、上海に戻らにゃならん。大陸行きだよ。それまでに今回の報告書も作っておかなきゃいかん。業務計画書も練り直しだしな、暇がないんだ」
「そりゃ…ご苦労なことです。殆どとんぼ返りみたいな話じゃないですか。でも、郷嶋さんが書類書きなんて似合わないですけど」
 素直に驚いた青木は、眼をぱちくりさせた。すると、青木は郷嶋に鼻で笑われた。
「俺も同感だ。だが俺はあいにくそう言うおつとめだからな。似合うとか似合わないの問題じゃないんだよな、残念なことによ。それに今回なんて、坊やみたいな予定外分子も入ったからな、調整が面倒で仕方がない」
 せせら笑いながら言われた、郷嶋の言葉が青木の気に障った。とりわけ、木場の前で坊やと呼ばれることになぜか苛立った。
「あんた、なんて言い草ですか。僕はただ軍命に従っただけですけれど。別に僕から鼻を突っ込んだ訳じゃない。貴方にそんな言い方されるような筋合いは毛頭ないと思いますが。それに――坊やじゃありません」
「そりゃそうだ。お前も俺も、そこの軍曹もな、みんなやるべき事をやってるだけだからな。ただ単純なことだ。予定と違った、それだけなんだよ。本質をきちんと見定められたら、そんな枝葉末節に引っかかったりしないがなあ――坊や」
 腰に手を当て、丸めた書類を頸筋にトントンと宛ながら大儀そうに嘯く郷嶋へ、青木は思わず詰め寄っだ。
「な――にが枝葉末節ですか、失礼だな!」
 途端、ぐいっと肩を掴まれ、バランスを崩しそうになった青木は、一歩後ろへと後ずさった。その間に大きな背中が割って入り、青木の視界はカーキ色でいっぱいになった。
「おい、貴様!いい加減にしろ。なにいちゃもんつけてやがるんだ。なんだか知らねえけどな、絡むんじゃねえ」
 その声に吃驚した青木は斜めにずれ、慌てて見上げる。木場が郷嶋と青木の間に割って入ったのだ。蠍の目が木場を睨め付けた。
「なんだ――軍曹。黙ってろ。それにな俺は奏任官だよ、判任官殿」
 口の端を上げ、郷嶋は木場をからかうように殊更ゆっくりと囁いた。
 奏任官とは大日本帝国憲法下の官吏の中でも、高級官吏に当たる高等官のうちのひとつである。また判任官とはその下の下級官吏にあたり、陸海軍では下士官に相当する。奏任官の任命には、武官は一般に士官学校や兵学校を卒業した少尉から大佐、文官は判任官からの昇進の他、高級官僚への足がかりである高等文官試験に合格して採用された後もこれに任命される。なので、年齢から鑑みるに郷嶋は高文試験に合格したキャリア組だと推察されるのだ。
つまり郷嶋の言葉には、郷嶋のことを軍属か地方人だと判断したであろう木場が、郷嶋にとって横柄な態度で彼を制したことに対する牽制が含まれていたのだ。そこには階級で全てが決まって行く、軍人特有の高圧的な態度そのものへ対する 蟠りもあったのかも知れない、と青木は一瞬思った。だが、いずれにせよ木場は郷嶋の返事をものともせず、仏頂面のまま睨み返して鼻を鳴らした。
「はん、知るか。俺ァ陸軍の人間だからな」
「俺はお前より官吏として上官なんだよ」
「どうでもいい」
 面倒くさそうに吐き捨てた木場の返事を、郷嶋は楽しげに聞いてせせら笑った。
「面白い馬鹿だな」
「うるせえよ」
 睨め付ける木場をものともせず、郷嶋は青木を見る。
「ところで、なんでこんなとこにいるんだ」
「僕らだって任務ですよ。今、木場軍曹の隊が積み込み作業をしてるから、休憩になにか食べるものを見繕ってくるって、市場まで」
「そんなもん、ここの兵隊にでも言えよ」
「知りませんよ。僕は、上官から頼まれただけだけですから」
「どうせ暇なのがお前くらいって事だろ」
「そりゃまあ…――任務がなかったのは否定しませんけど」
「正直だな、坊や。なに買うんだ」
「…決めて、ないです」
 なんでこんな事を郷嶋に言わなければならないのだ、と思いながらも、青木は律儀に答えた後に渋い顔をした。
「そうだな…いくら貰ったか知らないが、バナナがこのあたりは安いぞ。小さい台湾バナナとは違ってな、風味も少し違う。食べておいて損はないんじゃないか。人数分買うのも楽だしな。――さて、俺は行くよ。忙しいったらない」
――今のは、親切なんだろうか。言うだけ言って、すたすたと去っていった郷嶋の後ろ姿を、あっけにとられた二人はただ見ていた。
「――少尉殿」
「え、あッはい!」
 呼ばれて、青木は慌てて振りかえった。
「行きましょう」
「あ、ええ。変なところで時間をとられちゃった」
 再び歩き出す。青木は苦い顔で一人ごちた。それを聞いた木場が短く鼻で息を吹き飛ばし、青木を見下ろす。
「なんなんですか、あれ」
 訝しげに親指で郷嶋の去った方向を指す木場に、青木は弱った顔で説明した。
「あのひと、内務省の人で…――軍曹たちが運ぶ機材と一緒に内地から来たみたいです。僕も巻き込まれたからよく判らないけれど」
「はあん、内務省の。役人の割にァ嫌に目つきが物騒な」
 顎を撫でつつ答える木場は、少し砕けた口調で呟いた後、青木に続いて尋ねた。
「――失礼ながら。少尉殿は、学徒出陣組の学生さんでいらっしゃるんでありますか」
「え?あ、ああ去年の秋に高校卒業して、予備学生になったから――」
 突然の木場からの問いかけに、青木は目を丸くしながらも頷いた。木場は肩をしゃくるようにして笑う。笑っても厳ついことには変わりなかったが、意外に人好きのするような親しみある笑みだった。若そうだし、その話し方でわかりますよ、と木場が笑うのを聞いて先ほどから自分が素のままで話していたことに気付いた。肩を竦めて、しまった、と赤面した青木は下を向き言い訳する。
「抜けないんだよ…そもそも軍人ってガラじゃないし」
「…無理にせずとも良いと思いますがね。少なくとも、自分の前では。自分は別に上官じゃないんですから」
 俯向いていた顔を上げると、木場が苦笑しながら立派な顎を人差し指で掻いていた。
「うちの小隊長殿も学徒出陣組でして、やっぱり学生くさい言葉になってしまうらしく、兵に命令を下す時など苦労しておられますよ」
「そうか――そうですね、個人的に話す時くらい肩肘張らなくても良いか。ね、軍曹も僕に敬語なんて良いです」
「いや、自分は根っからの軍人でありますから。――ま、少尉殿が仰られるなら、少尉殿の前では適当にしますよ。なにしろ、上官命令なんでね」
 木場の気遣いに微笑みかけた青木は、嬉しそうに肩を揺らせて言った。そんな青木に木場は一度辞退したものの、仕方ねェとばかりに苦笑いしつつ敬礼してみせた。

 結局、郷嶋の助言通りにバナナを沢山買い込んだ。
 片言の英語で通じるだろうか、と心配していた青木だったがそれは杞憂に終わり、商人のたどたどしいが生きる手段の商売の為に貪欲に吸収された片言の日本語と現地語のスラング、そして英語のピジン言語で意思疎通は十分に出来た。大量のバナナを持って帰っていけば、丁度積み込み作業も終わる頃だった。全ての作業が終わった兵隊や研究者らと共にバナナを頬張りながら、差し障りのないような世間話をした。とはいえ、折からの時局柄、話題は常に自分らの経験した範囲のことである。
 話を聞けば、木場たちの隊は八月の二〇日朝早く、濃い霧のなか孫呉の駐屯地を出発したそうである。その時には演習参加のためとしか聞いておらず、一〇月はじめに転進命令が出るまで、まさかフィリピンまで来るとは思っていなかったという。
「それでですね、一〇月の一二日に上海の呉淞の港から乗船したんですが、すぐにどこかの小さな島の影に入ってしまったんであります。台湾沖で陸海の航空機が交戦中とのことで、大戦果を上げたって。でも都合四日間そこに停まりっぱなしで錨も降ろされ、動いたと思ったらまた上海に引き戻し。なんだかさっぱりでありました。うちの小隊長殿は、四日間のうちに減ってしまった食料や水を補給するためだろう、と仰っておられたのですが」
 一九の青木よりも二つくらい上の、それでもまだ若い兵隊が不思議そうに首を傾げながら語った。最初から停まらねば良いのに、と顔に書いてある。
「一二日から四日――それ、航空戦が始まったから動けなかったんだ。台湾の航空隊も総動員された」
 時期や船の位置から考えるに、青木たちの初陣である台湾航空戦のことであろう。おそらく輸送していた当時の船舶は無線封鎖していただろうから、推測するしかない。兵に事情説明などしないのが戦術から言っても常である。彼らは結局、接触した兵隊同士などのネットワークで自分たちの位置を知るのだ。
「少尉殿、それに参加されておられたのですか」
 木場が尋ねる。青木ははにかみながら頷いた。
「ああ――私は零戦乗りだから」
「うわあ、かっけー!自分らが艦橋とか起重機の上で転がってて砲兵に追っ払われてたりとかしてた間、少尉殿はその空の上で戦っていらっしゃってたんですねえ」
 他の若い兵隊たち歓声に首をひねった。
「ころが…?」
「いえね、自分ら船の中で寿司詰めで暑いのなんの。ですから少しでも涼しいところとか、機械にへばりついていないと、夜なんて寝られやしない。なんたって、孫呉じゃあ八月だって朝夕にはストーブ焚いてたんですよ。上海に来てむわっとした 蒸し暑さに閉口したものの、南方の海に出るとやっぱり違ったんでありますな」
「それで少尉殿、大勝利の手柄話でも!」
 気の良い笑みで尋ねる兵隊の面々に青木はたじろぐ。
「あ…それは、私は哨戒や後続機が来るまでの直掩命令だけだったからあまり――」
 青木はぎこちなく微笑んで困った笑顔を見せた。それは一件、手柄らしい手柄を立てていない故の謙虚な笑みと普通に見れば映ったであろう表情であったが、青木の顔色を察した木場が敷島に話題を振った。
「敷島先生。さっき伺ったところ、我々は途中までと言うことだったが」
「ええ、サンフェルナンドの駅まで警護して頂ければ、また空路で目的地まで向かいます」
「南方の地理なんざ知らねえが、行くだけでも大変だな、そりゃ」
「それはもう。――秘密計画ですから」
 呆れ混じりの木場に、にこやかな笑顔で敷島は至極真面目に答えたが、なにも知らない兵隊たちには敷島の言う秘密計画とやらが何かの冗談としか捉えられず、皆可笑しそうに腹を抱えて笑った。確かに、秘密計画ならばこんなところで秘密でござい、と暴露するとは思うはずもないだろう。青木は一瞬ひやりとしたものの、兵隊たちの可笑しそうな笑いに自分も笑わせられてしまった。

 暫くすると関口少尉が来て、室生が青木を呼んでいる、と教えてくれた。腰を上げて彼らへ辞すれば、関口が引き返して案内するという。二人で隊舎へと足を進めた。
「関口さん、ご親切にありがとうございます」
 青木が笑顔で礼を言えば、びくりと驚いて、赤面症なのか顔を赤くした。それにこそ、青木は目を丸くした。しかし、子供のような童顔の青木は多少心安く感じられたのであろうか、躊躇いがちに曇った口調で返事した。
「いや…その――何かやっていた方が気が紛れるからね。そういえば、飛行士と聞いたけど…若いね。高校生くらい…もしかして学徒出陣かい?」
 関口は淡く微笑み、物静かな口調で話しかけた。
「はあ、一九です。高校卒業してすぐ、海軍の一三期予備学生の飛行科に入りまして、七月に教育隊の分隊士に」
「っていうと…一八で卒業?」
「はい、学校が私立なので。それから僕は尋常科を五修で合格出来たんです」
 じゃあ優秀だな、と感心する関口に青木は面食らってとんでもない、とぶんぶん両手を振って否定した。
「ち、違いますよ。成績も良くはなかったですし、ただ運が良かっただけです。――そういえば、先ほど木場軍曹からお聞きしたんですが、関口さんも学徒組だって」
 首まで振って全否定した青木は、反対に関口へ質問を向けた。すると、関口は笑みを浮かべて肩を竦めて見せた。笑っているのに泣いているように見えた。
「そうだよ。僕は大学生だった。こう見えてもね、理系で粘菌の研究していたんだよ」
「え?理系の学生さん…じゃあ志願ですか」
「いや、とんでもないよ。自慢じゃないが、僕はとてもじゃないけどお国の役に立つような立派なものじゃない。単に召集されて幹候試験を受けただけだ。申し訳ない」
「そ、そんなことは」
 青木は溜息をつく関口へ慌てて言いつのる。
 いや、今回だってね――と口を開きかけた関口だったが、ああ少尉も計画に携わっていれば僕らの選出の話も知ってるだろう、と力無く笑う。いえ、私は緊急の補充要員だったので――と首を振り、青木は話を促した。
「南方戦線に転進が決まってこちらに来る船の中、大隊長に呼ばれた。なにかと思えば、ラポッグに停泊した後、師団の一部を陸送部隊として分割、マニラで合流する。うちの隊もそれに入ってたんだがね、その中でも僕の小隊から、自動車運転が出来る兵隊の割合が多い二分隊を更に分割して、輸送部隊に当てるからラオアグに行けってね。歩兵を輜重兵代わりにするんだ。幸い、分割されて預かった二分隊は分隊長が二人とも叩き上げ下士官でね、特に良く補佐してくれる。助けて貰ってばかりで大変有り難いが、本心は心苦しい。僕は…まあ英語の通訳官代わりと小隊長って立場の員数合わせで、漸く役に立ててるくらいだ。ああ――着いた。少尉、申し訳なかったね、いきなり変なことを言って」
 関口は顔を伏せたが、誰かに言いたかったのであろう。
「え――いえ、どなたも悩まれていらっしゃるんだな、と領って私はお聞かせ頂いて安心というか」
「そりゃまあ…程度は色々だろうがね」
 青木の言葉に困ったような顔で躊躇いがちの笑顔を見せ、関口は去っていった。青木は複雑な気分で、どう見ても軍人という荒事に向かない人種の関口の少し猫背気味の背中を曲がり角まで見送ってから、扉を開けた。

 その夜更け、青木はなかなか眠りに落ちられず、幾度目かの寝返りを打った。
 明日の昼前に整備が終わり次第、乗ってきた零式輸送を内地に送還させることになったので、結局それに同乗させて貰うと言うことに決まった。室生の呼び出しはその件についてであった。なのでここに一晩泊まり、明日輸送隊の出発後に飛び立つこととなった。
 郷嶋は既に夕方、昭南に向けて機上の人となり、去った。彼が飛び立つ直前、彼がいるという控えの部屋まで行けば、紫煙を燻らしていた郷嶋が顔を上げ、にやりと薄く笑った。灰皿へ煙草を押しつけ、傍らのアタッシェケースを持った郷嶋は青木の横を通り過ぎようとした。
「またな、青木」
 青木が何か言うより前に、擦れ違いざまに視線を合わせることなく素早く呟かれた。青木の身体が固まる。
「郷嶋さん――」
 慌てて反転し、彼の背中へ呼びかけると振り向いてきた。咄嗟に敬礼した。それを見た郷嶋が苦笑する。
「俺は軍人じゃないぜ。――まあいいけどよ」
 肩をそびやかして嘯いた郷嶋はスーツの裾を翻し、行ってしまった。
暫く経って、漸く青木は坊やでなく、名を呼ばれたことに気付いた。


 記憶が、思い出そうとせずにも頭に浮かんで来る。青木は溜息をついてから寝床を出た。腕時計を確認すると、一時を回っていた。はあ、と溜息をついてから手短に身支度し、部屋を抜け出た。特になにも宛てもなく、廊下を歩いた。戦中の航空基地であるので、寝静まることはない。昼間よりはだいぶ靜かだが、気配はある。
 青木は人気の少ない、兵舎の隅の中庭に出ると、叢に寝転がった。りいりい、と虫の声がさやかに聞こえた。空を見上げれば、漆黒の闇に無数の星が瞬いていた。明るい。あの辺りが天の川だろうかと眺めていれば、小さい頃に読んだ『銀河鉄道の夜』を思い出し、南十字星を探した。サウザンクロスは銀河鉄道の終着駅だ。青木は星の横に広がる石炭袋の中に吸い込まれていく気がした。
「――けれどもほんたうのさいはひは一体何だらう!」
 鼻がつんとして、涙が溢れた時に青木は昔読んだ一節を呟いた。心の中を掻きむしられるような感覚に、青木は堅く目を瞑る。自分はなにを今、やっているんだろう。

「少尉どの――? 青木少尉殿でありますか」
 突然誰かに呼ばれた。少し甲高い男の声。
 青木は涙も拭くのを忘れて、ばっと飛び起きた。渡り廊下から大きな影が降りてきた。
「き、木場軍曹――」
「あ…その、どうも失礼を」
 明るい星空に光った、青木の顔を伝う涙を見た木場は一瞬たじろいで、背を向けて帰ろうとした。彼を見て、青木も漸く涙に気付いて両腕で慌てて拭い、呼び止めた。
「あ、軍曹いいから。気にしないで下さい」
「気にするなッたって、あんた――どうしたんです」
 木場は苦笑いの体で肩をそびやかし、青木の隣に座る。
「軍曹こそ、こんな時間にどうしたんです」
「俺は便所行った帰りですよ。廊下から少尉殿が見えましてね、なにか声も聞こえたもんで」
 青木は赤面し、肩を竦めて叱られた学生のような顔で木場を見つめ、言い訳するように口を開いた。
「――眠れなくて。そしたら、星がきれいで」
 星ですかい? と顔を覗き込んでくる木場に微笑みで頷き、青木は空を指さす。指の先を木場も見上げた。
「ほら、あれとあれ――南十字星ですよ。昔、読んだ本に出て来たんです」
「本ですかい? 俺にァ縁のなさそうな」
 木場は視線を青木に戻すと、自らをせせら笑うようにして首の後ろの付け根に大きな手を遣った。
「童話ですよ。銀河鉄道の夜、と言う。とても不思議な話で、空の鉄道に乗ってゆく話です。童話なのに、なんだか難しかったから覚えているんです」
「ああ…――ガキの頃、友人の家で読んだことがあるような。覚えてるのは何となくですがね」
 木場は青木の説明を聞き、何か思い出すような顔で虚空を睨んだ後、顎に手をやって擦りながら答えた。読んだことあるんだ、と青木は意外だと言わんばかりに失礼にも彼を眺めた。なんですかい、と訝しげに問われ、なんでもないです、と慌てて首を振り話を進めた。
「あの話の中にこんな箇所があった。――けれどもほんたうのさいはひは一体何だらう。それを思い出したら、なんだかね。泣けてきちゃったんですよ」
青木は恥ずかしそうに、へへへと誤魔化し笑いしながら頭を掻いて見せた。青木の童顔は本当に子供のようで、木場は彼の言葉とそれに眼を剥いた後、眉根を寄せた。
「――男が泣いていい時ァ、親が死んだ時と財布を落としちまった時だけですぜ」
視線を外して言われた、呆れ気味のぶっきらぼうなその言葉で青木は吹き出した。
「あ…はは! なんですかそれ。そりゃ厳しい」
「そう言う心意気を持てってえ意味ですよ。なんですかい、ベソ掻くと思ったらもう笑い転げっちまって。餓鬼みてえな顔がもっと餓鬼になりますぜ」
 木場は苦虫を噛み潰したような顔で口をへの字にした。口が悪い。だが彼の言う餓鬼という言葉に対し、青木はなんの不快感も持たなかった。やっぱり自分はまだまだなにも出来ない――迷いのある未成熟な人間だと思ったからだ。青木は心の隅でそんなことを考え、殊更子供っぽく見せるように首を傾げて木場を見上げるようにして、にっこり笑ってみせた。
「酷いなあ軍曹。僕、当年とってもう一九ですよ」
「じゅうくだあ? ――いや失礼。そうだよな、学生上がりの将校ならそれ位か。とても見えやしねえですがね」
 木場が驚倒の甲高い声を上げた。すぐに片手を上げて詫びたものの、一人で納得した後に木場は悪戯っぽく笑いかけた。青木は、よく言われます、と口角を上げて苦笑した。
「しかし、まあ――少尉殿はお悩みでおられる、と」
「いえ、別に悩んでいるって程じゃ――あ…でも、気にはなってしまうと言うか」
木場へ振り返った青木は、改めて言われると気恥ずかしくなって言い淀んだ後、それでも素直に頷いて立てた両膝を抱えてその上にくたりと項垂れ、視線を暗い闇に彷徨わせた。青木を目を細めて見つめた後、居心地の悪そうな顔で咳払いをして、南十字星の清かな煌めきを振り仰いだ木場は、それを睨んだまま溜息混じりに呟いた。
「本当の幸いって、なあ――」
「はあ」
「そんなのどれがそうだか解んねえから、結局は自分がやれることやるしか――ないじゃないですかね。そしたらそう言うもんに、少しは近付くかも知れねえですぜ」
「間に合い――ますかね」
 青木は酷く真面目な顔をして問うた。戦争という時代に生きる自分たちの立場は、充分解っているからだ。時間が本当ない。
「迷ってる暇ァなんざねェじゃないですかい。――まあそう言う迷いってのは、あんたにはよく似合うって思いますよ。俺には青臭くていけねえや」
 木場は後ろに両手をつき、天を仰ぐようにして空笑いのような大きな動作で一笑した。青木は身体を木場の方へ向けてぽかんと見つめていたが、なんだか自分でも解らない大きな感情に揺さぶられた。ごつん、と木場の太い二の腕に自分の額をぶつけた。堅かった。
「お、おい――…?」
 突然のことに驚いた木場が一瞬動いて筋肉の律動が彼の身体を僅かに揺らしたのだが、すぐにゆっくりと元の位置に戻った。それには構わず、顔を伏せたまま鼻を啜る。額を腕にくっつけたまま何度目か啜っていると、また少しだけ移動する腕の動きに自分も合わせて顔を見せないようにした。ふ、と青木の人より少し大きな頭を包む、大きく温かな感触がした。木場の武骨な手だ。ぽんぽんと軽く弾むそれはとても優しい。だから青木は堅く目を瞑って、うう…と嗚咽を漏らした。
 青木の耳に、飛行機の着陸音が曇って聞こえた。

 翌二六日の朝、輸送隊が旅立った。
 正直、またまみえることはないだろうと思った。だから、遠ざかるトラックが見えなくなるまで佇んでいた。




                                                            …next→

Afterword

やっと、出てきた真打ち(自分の中で)木場軍曹。それから関口少尉。
このあたりの部隊設定などは資料メモにぶち込んであるので、あながち一からまっさらの妄想では…いちおう無いはずですw
木場が青木に敬語を使うのが、非常に奇妙な感じがしてたまりませんでした。まあ階級から言ってこう云わなきゃいけないんだけど…変な感じ!!個人的に海軍の青木に、武骨な感じに木場が陸軍調で「少尉殿!」って殿つけするのがときめきます。
そして郷嶋と木場はホントに合わない気がして、競り合って貰いました。奏任官と判任官!うーんと、今で言うキャリア官僚と三種国家公務員(二種ってよりは)って感じかなー。あ、兵隊さんはバイト非常勤職員にあたります。
研究員の名前…ひどいですねwww

郷嶋とのターンを入れたので、青木と木場で、南十字星を見上げて欲しい!と思って最後入れました。銀河鉄道の夜…木場は榎さんちで読んだ記憶があればいいです。まあ青木が失礼なこと言ってますがね。
もうあと一息で終わりなので、よろしくお願いします…!









QLOOKアクセス解析